第九章 施設開業
リゾート施設は金鉱を見つけてから約一年で完成した。
市長など地元名士に加え山のもと所有者にテープカットをしてもらい施設はいよいよ開業した。
市長に献金しておいたのが効いてライフラインなどの工事には便宜を図ってもらったのだ。
こういうのを必要悪というのだろう。もちろん市長の頭の片隅にはワタシが存在している。
ボランティア活動などの下調べで見つけた重症者は歩けるようになった段階で希望者には
介護施設からこちらに移動してもらっている。
一般的な施設に加え別棟の体育館にはプール、大浴場、リクリエーションルーム、シアター
ルーム等を完備しているから充実したリゾート施設といえよう。
丘陵地帯には外周にりんご、柿、栗等の果樹、内側はブルーベリー、キウイ
等の小木を植えている。遊歩道の内側には菜園予定地が広がっている。
まあここは試験的にスタートしたものだ。不都合な部分は金の力で改善していく。
この施設でさらに元気になっていただき、本人の希望次第で永住か退出を選択してもらう。
土いじりが好きな者ばかりではないだろうし、ここの生活に飽きる人もいるだろう。
その場合は必要なら別に住居を提供するし、如何様にも援助できる。
ただしリミットは20年としている。元気にあと20年生きれたらこの世に未練が無くなるか
どうかは分からないが、その時は苦しまず楽にポックリいける様にセットしている。
もちろん本人には内緒だ。現在のところ我々の力はそこらが限界だ。
「 まあ先のことで悩むことはないだろう。今は完成を喜び、しっかり運営しよう」
施設運営の各管理責任者は元ホームレスのメンバーがあたっている。
「 おれ、むかしから規則正しい生活が苦手なんだ」
「 おれだって、施設の総務部長なんて柄じゃないよ。新しく従業員になったボイラーマンや
営繕の人、食堂のスタッフ、植栽担当、アルバイトの清掃人などをまとめられるか自信ないよ」
もとホームレスたちは管理職は苦手らしい。
「 品良くそれらしくしてればいいよ」
「 これまでトレーニングしただろう。それにうまくやっているよ」
「 まあしばらく役割分担どおりやっていこう。問題があればその時対応しよう」
「 おれたちだって楽しんでもいいんだよな。陶芸教室は盛況だがおれもやってみたい」
「 絵画の先生は綺麗だな。おれのタイプだ」
「 ホームレス体験教室なら俺は先生ができるぞ。ダンボールとビニールシートが
あればいいんだ。廃品の目利きもできるようになるし」
「 ボケッ! そんなら生徒を集めてみろ。ただしゼンを利用したら駄目だぞ」
「 チェッ読まれたか、それならいいや。じゃあこれならどうだ。えーっと・・・」
「 喋りながら考えるな!」 こんな馬鹿を言い合うのが我々の持ち味である。
仲良くなったお年寄り同士が昼間は植栽の植え込みをしている。今はコスモスの種を
蒔いているそうだ。新しい環境で積極的に楽しみを見つけてほしいと思う。私たちが試みた
のは犬を10匹施設で飼ってみたことだ。この犬の世話は入居者がやっている。
犬も可愛がってもらいじゃれ回っている。
こいつらは施設内を自由に歩かせているが、夜間は外回りをして彼らのテリトリーに
入り込もうとする動物を追い出している。自分たちの役割をよく理解しているのだ。
お年寄りは日に日に元気になり、身体を動かし、趣味を楽しんでいる。我々もそれがうれしい。
運営内容については従業員と我々の間の風通しを良くし見直しを図っている。
運営資金については利益を求めてはいないが、潤沢に供給ができる。いざとなれば金鉱から
切り出すという奥の手がある。金鉱には大きなスクレイパーやショベルが入らないので
主として高圧のウオータージェットを使うことにした。
土肥の金鉱は純度が高いので気持ちよく切り取れる。穴の補強は元土木屋のロクさんの
意見で中央に柱を組み放射状に腕を伸ばした支柱を組む形にした。
中での作業の電源は発電機から取るので排気筒用の縦穴を開け強力な排気ファンもつけた。
マフラーを付けたので夜間に動かしても動作音はほとんど聞こえない。
世界の金鉱山の含有率は1tあたり5グラムらしい。
しかしここはほぼ純金に近いので必要量を切り取ればいいのだ。引き取る会社から鉱山の
場所や規模など聞いてくるが、適当に返事をしている。
運搬する車は其のたびに変更しているし、他県bセ。あちら側が不思議がるのは金の
含有量が異常に高いからだが、勝手に推測させている。
振り込まれる金はすぐに引き出して海外を含めた多数の銀行口座を転々と移動させている。
しかし最近は銀行にもマネーロンダリング対策ソフトも使われているので油断はできない。
これらに対抗するセキュリティにはワタシが気を配っているから安心だ。
万一資金の出所を特定されてもこちらには国に無駄金を使われるより有効に使うと
いう理念があるから何の疚しさもない。