第十章   海外援助



元気になったお年寄りは施設の運営にも協力してくれるようになった。

これならそのうち施設の運営を任せても大丈夫になるであろう。

あの児童養護施設にも積極的に手助けに行ってもらっている。

子供らからジイちゃん、バアちゃんと親しまれ、孫のような子供達の面倒をみるのが

嬉しいそうだ。

なにより彼らには貴重な人生経験があるのだから、子供達にいい影響を与えるに違いない。

伸夫もたくましくなったと園長が言ってくれた。

伊豆の施設では他にも外に出て活動することを望む年寄がいる。見かけは少し老いて

いるが体力と気力はそこいらの軟弱な若者以上あるからかもしれない。

そうした人は外に出て何かに役立とうとするが中々社会はそんな環境ではない。

若い者でも就職難な時代なのだ。しかし元々人間はひとつの環境に満足しない。

施設の老人たちは恵まれた環境を出て他の生きがいを求めるほど回復していた。

我々の当初の目的は老人救済であるが、ここにきて老人が救済活動をするのもありかと

考えるようになった。もちろん活動のバックアップは我々がする。

元気になったおじいさん、おばあさんは外見はあまり変わっていないが、動作は若者と

変わらない。会話の内容も年寄くさくない。

それで私たちは彼らを若ジイ、若ババと呼んでいる。

その若ジイ、若ババのほとんどが自分達の家庭に帰ろうとしなかった。まあここなら

家族に気がねなく好きな事を楽しむことができるが、はたしてそれだけだろうか。

「 べつに家に帰ってほしいわけでありませんが、何かわけがありますか」 と私は彼らに

聞いてみた。

「 ここの暮らしは今までになく快適で楽しいよ。家に帰らないのはそれだけじゃないんだよ。

家には可愛い孫もいるしね」

「 だけどね、以前の暮らしの残滓が頭にあるんだよ」

「 以前の私らの立場はひどいものでね。多くの介護を受ける人達が家庭を壊す元凶として

扱われているんだ。悲しい事だよそれは」

「 すき好んで下の世話なんぞさせたくないよ。世話をかけるのは辛かったんだ。 

私の介護のせいでが段々冷え切っていく家庭をみるのがね」

「 介護施設に入れてくれてほっとしたんだよ。まあその頃は何が何だかボケてしまって

いたけどね」

「 だから元気になったからって家に戻ることはしないんだ。波風を起こしたくないからね。

家には元気にやってるから心配しないでと云っているんだ」 

「 それで私の気持ちは伝わるはずさ」

「 そうでしたか。皆さんつらい経験をされたのですね」 

「 だけど、あんたたちが私らを変えてくれたろ!」

「 元気になって私らなりに考えたんだ。同じ生き方を繰り返すんじゃなく、

他人の為に生きてやろうってね。私らのほとんどがそう考えているんだよ」

私はワタシに聞いてみた。

「 あの若ジイと若ババに海外支援を頼んだらOKするかな」

「 やりそうだよ、あの元気だ」

「 若ジイと若ババじゃ呼びにくいな。合わせてジバにしよう」

「 だけどド素人は送り込めんぞ。それなりの準備がいるな」

「 海外派遣の研修センターで各種のブリーフィングを受けさせよう」

「 具体的にはどんな事かな」

「 一般的な活動の手法、語学等コミニケーション能力、受け入れ先の学習とか異文化の

事前学習、それと基本的な救済活動技術の習得といったところかな」

「 それを経て目標地域を設定しょう」

「 そのあと現地のNGO法人と綿密に交流し相手の希望に沿った援助をする項目の

検討を行う。それに伴い準備品目、派遣人員、運搬手段の設定に移る」

「 きゅうに内容が難しくなってきたな」

「 なにも心配ないよ。現地の人と溶け込むのは俺たちの得意技だ」

「 図々しいのは特技か」

「 水資源に困窮している所といえばどこかな」

「 ナイジェリアのそんなニュースを見たな」

「 不衛生な水を飲んで伝染病が蔓延しているらしい」

「 人口は確か二億近かったかな、アフリカの大国だ」

「 最初からそんな大物は無理だな」

「 いずれにしろ食料支援の問題がある。米を買い占めれば国内に影響が出てくる」

「 ここはヤマさんに聞いてもらおう」

「 えーどうしたらいい?」

「 自慢するようだが、私は進化し続けている。これまでにわたしが接触した人の知識を

シンクロさせて難解な問題も解けるようになっている」

「 よく分からないがどうゆう事?」

「 君にも分かるように簡単に説明すると・・・」

「 どうせ俺はアホだよ」

「 君の欲している答えの解決策として次の提案をする」

「 おまえってなんか段々偉そうになっていくな性格が」

「 主食の米の成分は炭水化物だ。そこら辺りの雑草と同じだ」

「 牛や羊が草を食べて生きているのはそれを消化できるからだ」

「 そこまでは解かるよ」

「 しからばその過程を詳細に述べよ」

「 お前は学校の先生か」

「 君とふざけていると気が休まるのだ」

「 牛は植物のセルロースを微生物の力で分解しているんだ」

「 ほうほう、牛は四つ胃を持っていて反すうするんだろ」

「 よく知ってるな。そこで細かくして胃の中の細菌や原生生物で分解してタンパク質

や糖質やいろんな栄養素に変えているんだ。だからそれを人工的に効率的に

やればいいんだ。理論的には可能だよ」

「 つまりね、バクテリアを指導するんだ。繁殖にいい環境を提供するからもっと

速く分解して栄養素を合成しろってね」

「 ゲゲ! 人間だけじゃないのか洗脳できるのは」

「 もっと感心してちょう」

「 お前はどこの出身だ。まあいい、それをどこでやるんだ」

「 場所は施設の料理室でいい。密閉できる窯があったろう。それと誰かにそこらの草を

刈ってきてもらおう。その間に牛から菌を採取して説得をしてみるよ」

大汗をかいて刈り取ってきた大量の雑草を洗浄した後、熱湯消毒した。

菌から聞いた繁殖の最適温度と?で草と雑草を容器に入れゆっくりと攪拌を始めた。

一時間するとガス抜き穴からすごい勢いで炭酸ガスが出てきた。覗き穴から観ると

中はドロドロになり発酵が進んでいるのがわかる。

試しに二時間と三時間程経って中身取り出した。さらに?過した物を容器に取り出した。

乳白色のエマルジョンでヨーグルトのようだ。

「 うまそうだな、食べてみるかい」

「 うー・・・」

「 死んだら骨はひろってやる」

「 こうなりゃやけくそだ、食べるよ」

「 おっ!バリュムよりはうまいよ、少し酸味があるが食えんことはない」

「 栄養価が確認できたら専用の装置がいるな」

サンプルを工業技術センターに持ち込んで検査を依頼した。

栄養の分析ではバランスのよい完全食品という結果が出た。ヒスタミンのような危険物質も

含まれず食品としての安全が確認された。

「 食品加工に携わった経験のあるジバがいたな。その人たちに助けてもらおう」

さっそく別棟を建て製造を始めた。出来上がった物をトレイに流し真空乾燥機で水分を

ある程度とばし石鹸程度の大きさに加工した。

あとはどのような料理に利用できるか考えてもらった。

すると具材や調味料次第で各種のスープ、別の酵母で再醗酵させてチーズ、、穀物と混ぜて

焼けばパンやクッキー、雑穀と混ぜて油で揚げれば食感はチキンナゲットとそっくりに

出来上がった。

施設で提供してみると (美味しい) と上々の評価を得た。

利用範囲は工夫しだいでさらに広がるだろう。緊急の栄養食品として合格である。

専用の加工プラントを造り、大量製造し真空パックした物と調味料を各種用意した。

この際だから。現地で稲作を援助する他に付加価値の高い作物の種や苗も用意する

ことにした。

ワタシに聞くとそれを予想して以前からその様な作物を考えているという。

収穫量が飛躍的に多いもの、根も葉も実も食用になるタイプ、一度植えれば年中収穫できる

果実、土地の乾燥に負けず、土質に順応するなど、その地域に適した作物を用意

出来るという。そこでその種苗を大量に確保してもらった。

「 手始めにやるなら情報が入りやすい近隣国がいい」

「 フィリピンはどうかね」

「 確かに周辺国に比べ出遅れているね。マルコスやイメルダなんてひどかったな」

「 貧富の差が広がって貧しい者がひどい生活をしているらしい」

「 掘立小屋で生活し、廃棄物をあさる子供をテレビで見るな」

「 地方はどうなんだ」

「 同じようなものだ。貧しいから政情は安定してない、反政府勢力もいる」

「 国民が政治に失望しているんだ。少しの賄賂でも選挙に投票するらしい」

「 食料はどうなんだ。たしか米を作っているだろう」

「 東南アジアで米を輸入している国はフィリピンだけだ」

「 なんでだ? あの暑い国なら二期作だってできるだろう」

「 生産効率が日本の三分の一らしい。政府が工作機械を輸入しても大地主が喜ぶ

だけの構図だ。日本みたいに農地解放をしてないんだ」

「 戦争に負けたのがよかったのか。マッカーサーが偉かったのか」

「 大地主の力があの国は強すぎるんだ。みな諦めているんだな」

「 もっと奥部ではひどい生活をしているらしいよ。国の恩恵を受けていないんだ」

「 じゃあそこを援助していけば意識も変わっていくかな」

「 ジバのパワフルさを見ればそうなる可能性がある」

「 我々の知識はそんなところだが、それで援助する国とか対象を決めていいのかな」

「 援助した後の結果を心配するってことか。そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないか。

今より悪くならなければいいんだ」

「 我々もそうだ、恩恵を受ける意識から人助けをしたいという意識に変わっている」

「 なるほど、その人達に希望とやる気をもたらせる援助をするんだな」

日本のODAに援助協力の意思を伝えると共に実態のレクチャーを受けた。

フィリピン大使館への連絡と意志疎通には手間取ったが賄賂と例の手で政府への了解を

とってもらった。

海外派遣の研修も終わり、いよいよ出発の日がやってきた。

3隻の輸送船をチャーターし、食料、衣料、医薬品、井戸掘削機、太陽光発電パネル、

農機具、肥料等をコンテナに満載し出港した。

事前にマニラの銀行に口座を開いて資金を振り込んでおいた。

大使を介して大統領や政府幹部にはそれなりの金を渡しておいたので軍部の援助も

受けられることになった。

こういった連中に懐柔する際、ワタシが侵入しておいたから役立つだろう。

たっぶりと金を渡した軍の協力で村までの道路は補修されていた。

一時的に港の倉庫に入れておいたコンテナを計画に沿ってトラックに乗せ私たちは

出発した。

フィリビンの地方部は想像以上に事態が深刻だった。

都会から離れた村落には電気、水道などのライフラインはもちろん通ってない。

まず水源が遠い為遠くまで汲みに行くのだが、これは聞いたとおり子供の仕事になっている。

子供らと水源まで行ってみると枯れかかった汚い池だった。

耕作も水が不足しているので収穫率が低い。

その為現金収入が不足し、村人全員の生活は貧しく栄養不足が続いている。

また不衛生な環境の為、伝染病に罹っている人が多いが医療を受ける収入がない。

政府の援助もこの辺りまで大して届かない。

政府の無策は噴飯ものだが、今それをあれこれ言っても仕方がない。

早速食料品から提供する事にした。例の緊急食料の調理方法をジバが村の女性を集めて

説明している。そして持参の大鍋に出来上がった料理をふるまっている。

食料の供給が一段落したところで井戸の掘削に取り掛かった。

何処に地下の水源があるかこちらには分かるので作業は容易だった。

村長の希望をいれて数か所の井戸を掘り潤沢な水を得ることができた。ここまできて

村人も我々の本気度が分かったらしい。

全体の電源としては太陽光パネルでは十分でないので発電機が主体となる。

発電機の小屋と小高い丘に給水タンクを設置した。

井戸から仮説住宅まで配管し共同給水、洗濯、シャワーなどのサービスがいつでも

受けられるようにした。

ここまで元ホームレスとジバ達はフル稼働で仕事を進めた。

一緒に来た兵隊たちは最初のうちはは手伝おうとしなかったが、考えが変わったのか

手を貸しだした。

別のプレハブでは弱っている人を集め看護士の経験のある人とわたしが診療を始めた。

健康診断を経て各自の診断表を渡し、重症者から治療を始める。

ワタシの手によって短時間で元気になった人を見て村人たちは驚いている。

日本の医師会がこの様子をみれば仰天どころか怒り出すだろう。

元気になった人達から感謝され。伝染病から回復した子供たちは私達から離れようとしない。

村民に手洗いの重要性とシャワーを浴びるよう説明し、一人ずつ身体を洗った人に衣類や

日用品を渡してゆく。

子供も大人も新しい服に着替えサッパリしている。

子供たちは水汲みから解放され、遊びに夢中になっている。

学校がロクさんを中心にプレハブで組み立てられた。

これまでのお座なりな援助と違うことを理解した村長や長老も熱心に話を聞いている。

夕方、村の広場に私達はテーブルと料理を持ち込んだ。

村民と私達と護衛してきた兵隊たちの宴会が始まった。

挨拶やら踊りのあと元ホームレスの楽器演奏が始まり、宴会は盛り上がっている。

またフィリビンの女性歌手の真似でシズオが歌い大うけした。たくましい男たちに

さわられて喜んでいる。

仕事と趣味の一致する環境は彼をますます女っぽくしている。

ハイテンポで一日が終わり流石に疲れた私は夢も見ずに眠ってしまった。

翌日、米の生産能力を上げるために男たちを集め効率的な耕作方法を農業経験者が丁寧に

説明している。米の収量が今の十倍になると聞いても村人は半信半疑だ。

畑耕作を水田にする必要性を説明した後、今の畑を掘り返し、下にビニールシートを

敷き詰め、土を戻し更に畝をつくる指示をした。

無理に納得させるのでは無く賛同した者の畑からジバが率先してショベルやブルドーザーを

使い新しい畑が出来上がった。

水を入れ耕運機で耕し、肥料を施し、田植え機で日本から持ってきた苗を植えると

その作業に感動している。

これらの農機具は村に残すと聞いて使い方を訊ねる人達が大勢出てきた。

兵隊たちも最初は我々の事をただ金をばらまくお遊びと心中快くは思っていなかったらしい。

村人と共に汗をかき心から役立とうするジバの姿勢に感動したようだ。

この村が復興する為の独自の産業とは何か?ここに来る早々に検討を始めている。

例の発酵食品は万能食品だがこれはあくまでも飢餓対策用である。

あたえるだけでは現状は根本的に変わらない。村民が現金収入を得るには稲作の他に

効率の良い作物を育てるしかない。農業従事の経験者に意見を聞き、ここの土質と気候に

合ったぶどうを育てることになった。

そこで村の女性の力を借りることにした。村長の奥さんに説明して女性に集合してもらい、

現金収入が得られる事と、女性の地位がそれにより確率される事、子供たちに教育を

受けさせる事ができると説いた。

女性の手を借り雑草地を耕し防水シートを埋めこみその上に土を盛り肥料を施した。

葡萄はワタシの手によって成長が早く、年中収穫可能にしているから種を蒔いてから

短期間で芽を出し葉を伸ばし始めた。村の人たちは驚きとともにこれならという表情と

自信が見えるようになった。

私達は更に奥の部落に援助の手を伸ばす準備を始めていた。

援助物質の供給コントロールはこちらの状況を日本の本部に連絡しており逐次船で

補給している。

噂を聞きおこぼれに群がろうとする小役人には賄賂や贈り物を与え難しい事を言わさない。

米やぶどうの加工梱包工場の建設は床にコンクリートを流し、その上にプレハブを組み建て

生産に必要な機器を備え付けた。配管、配線を含め全部ジバが係わった。

いよいよ奥の村に補給物質などの運搬が始まった。

我々の噂はここらにも広まっていた様でえらい歓迎ぶりだ。次の部落の特徴はより

山村であることだった。棚田が広がっているがここも水源不足だった。

村の周辺と田畑の為に出来るだけ高い場所に井戸を掘削して水を出す事に成功した。

まったくワタシの探査能力には感心するしかない。

あとは前の村と同じような過程を経て援助は進展していく。

落差を利用し棚田に水を流し、持参したハイブリット米の苗を植えた。

小型の耕耘機や田植え機の効率の良さに驚いた様子だったが、それを村に寄付すると

聞いてやる気が高まったようだ。

この村の気候は朝晩の寒暖の差が大きくコーヒーに適していたので、女性の現金収入に

なる事を説明し苗木の植込みを行った。もちろんその指導役はゼンである。

「 俺だって出来るのになんでゼンなんだ」 コウさんが不満をたれる。

「 お前にゃむかん。助べ心が顔に出ている。見ろ、みんな韓流スターを見るような

目をしてゼンをみてる」

村民の中に最初から愛想のいい女性がいた。わたしにはすぐに反政府組織のメンバー

だと分かったからこちらから近づいた。

どうやらこちらの目的とふところ具合を探りたいらしい。

そんな時期に本部から重要な連絡が入った。どうやら銀行口座からの莫大な金の

入出庫が目をつけられたらしい。税務署のほかに得体の知れない機構が探りを

入れてくると連絡があった。他人の金ながら、じゃぶじゃぶ使うのが気になるようだ。

わたしはワタシとゼンさんの了解を得て彼の強化を行った。

ここに第二の強力な能力を持つ人間が誕生した。

「 期待してるよ、君のバックボーンは名前のとおり善だ。君には元々素養があった。

今やその能力はワタシ以上だ。思いっきりやってくれ」

「 分かりました。わたしの身体の中で強力なダイナモが回っているようです。御期待に

応えてがんばります」

私は一時帰国した。その代わりに施設からはジバの集団がやってきた。ジバによる

施設運営は我々が始めた頃よりうまくいっている。

帰国した私は接触してくるハイエナの手先に気軽に会い片端から洗脳していった。

手を伸ばしてきたのは医師会から依頼を受けた暴力団、介護福祉協会をバックにした

圧力団体や宗教団体である。

老人が元気になったり、宗教に見向きもしないのがお気にめさないらしい。

それに加えて政府の諜報組織と税務署も調査に蠢動している。 

政府の外交政策がおざなりの援助政策に止まっているのに対し、これを

無視したやり方で、しかも大きな成果を上げているのが頭にきたらしい。

しつこく金の出元を探っている。換金する住友金属にも圧力をかけているようだ。

「 大丈夫かな」 私はワタシに聞いた。

「 相手は欲ぶかい人間共だ。そこに穴があるんだ」

「 ここまできたら抜本的な行動しかないな。守より攻めろさ」

「 しかし相手は大勢だ。一人一人洗脳していたら相手が対抗策を打つだろう」

「 そうだね、しかしそれは考えているんだ」

「 どうやるんだ教えてくれ」

「 こしょこしょ・・・」

「 なんだ聞こえないぞ」

「 ないしょだよ。今に君をおどろかせてやるよ」

「 こどもかお前は」

「 今のままでは対抗する人員が足りない。ここはジバに協力してもらおう」

「 2、30人でいいかな」

「 下調べをしている国税局の連中をわざと呼び込もう」

「 君の手口は解かっているよ」

「 詐欺師の様に言うな、人聞きの悪い」

「 小あたりに接触して其々の中枢を一挙に叩くんだ」

ジバを周辺の町に分散して待機させた。

ジバの偵察で最初に網に引っ掛かったのは二人の国税局査察部の職員だった。

潜伏していたジバ達は公園のベンチで話しているふりをしていた。税務局員が無害な

老人とみて声をかけた。

「 おじいさん、何の話してるんですか?」

「 年寄が集まれば年金の話か、病気の話にきまっているさ」

そうですか、ところであの施設の事を聞きたいんですがね」

「 あーあれかい。駄目だよ費用が高すぎるし貧乏人には無縁だよ」

「 それに所長は金を貯め込むのが趣味でね、金庫にゃ金塊がうなっているそうな」

ジバは中々うまい芝居をしてくれている。

税務局員は付近をうろうろして我々の調査をしていたが、いよいよ施設にやってきた。

偉そうに役人風を吹かせていたが、応接室で応対すると見せてたちまち頭の内部に

侵入されてしまった。二人から確かめたところ近日、マル査による査察があるそうだ。

ワタシが当施設の運営がどんぶりに近く税金や財務管理に素人であるような印象を

植え付けた。

餌を蒔いた二日後に大勢がダンボールを持ってやってきた。

施設の出入り口を締め切り、無味無臭のガスを施設中に噴射させた。

中身はワタシの分身である。一分経たぬうちに全員がワタシに感染した。

この施設が一点の曇りもない真面目な運営をしている事を刷り込まれた職員は

ワタシを連れて局に戻って行った。強力な暗示で局長と対面できることになり、

程無くして国税務局全体が感染を終えた。以来一度も役人が施設に姿を見せたことがない。

施設へデモやヘイトスピーチで圧力をかけてきた宗教団体も分解、壊滅した。

突然教祖や幹部がハレンチな行動をしてそれをニュースに取り上げられたからだ。

それに加え怪しげなご利益信仰により信者から得た所得の不法申告による蓄財と

マネーロンダリングが見つかり、それをメディアに暴露され大問題になった結果だ。

医師会も脱税が暴露され理事長ら幹部が発狂したらすっかり大人しくなり、下請けの

暴力団は幹部が全員行方不明になり壊滅した。

介護福祉協会と介護施設運営者は何故か年寄からかすめ取った利益を介護士や

従業員に大盤振る舞いした。

奇怪な行為の後、理事長以下幹部は頭を丸めて八十八か所参りをしているそうだ。

さすがに政府はこれらの異常な事態を見逃してはいなかった。

内閣諜報機関に、盗聴、メールチェック、従業員への接触等で我々の能力と湧き出るような

資金を調べさせている。いずれ強制的に強奪するつもりだろう。

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第11章 ゲリラとの遭遇
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