第3章  未知への足入れ


--1--

河川敷を歩く時は、あのコミューンに立ち寄ることが多い。

彼らはお勤めと称して、其々の予定をこなす。

廃品回収は主にアルミ缶、ダンボール、雑誌類がねらい目だそうだ。

粗大ごみの回収日にはリヤカーが力を発揮するそうで、時にはおもわぬ

お宝もあるそうだ。 回収品はそれぞれ引き取り業者に分別して持っていくらしい。

特に引っ越し時にはいいゴミが出るんだそうで、その時は競走になるそうだ。

だから貴重な情報をくれる親切な人との付き合いは大切らしい。

時にはコンビニの裏で廃棄品の弁当をわけてもらったり、ボランティアの人が

来る日には早めに行ってならび、ゆで卵やおにぎり、生活用品をいただくそうだ。

ホームレスといえば人生の落伍者というイメージを持つ人が多かろう。。

ただ教祖からは貰うことに慣れてはいけない。それが普通と感じることは

恐ろしいことなんだと日々言われているらしい。

そういえばここの住人はボロを着ているものの何となく小ざっぱりしている。

ホームレスといえば薄汚れていて不潔なイメージがあったのだが、彼らにはそれがない。

衛生感覚もかなりのもので、川でこまめに衣類の洗濯や体を洗っているそうだ。

それに何度か食事をご馳走になったが、元調理師のコウさんの腕は一流で私がいつも

食べているコンビニ弁当より数段上である。

なにより世間に迷惑や面倒をかけたくないというホームレスの矜持がみられる。

言いたい事を言い合っていても教祖や仲間同士の信頼感と結束力は強いらしい。

わたしはこれまでの経験を率直に語った。

「 今までこんな事は全然無かったので驚いているんです」

「 別段、その他はどこも異常はないんです。信じられないでしょうが」

「 うーん」 教祖はうなり声をだした。

「 むつかしい問題だなそれは。正直いってわしにはその症状が何によるものかわからん

わ。あんたのことだから信じるが、そんなことは聞いたことがない」

「 病院の精神科で診てもらう手もあるが・・・・」

「 仮にそれが実在したとしても、今のところそう悪さをしている様でもないし」

「 下手な医者の台詞じゃないが、しばらく様子をみてはどうかね?」

「 そしてそれに向き合うんだ」

この歳で恐れるものは無しか。不安は残ったが礼を言って私は話題をかえた。

「 ところでヤマちゃん、あんた将棋はやるかい」

「 いやわしは暇つぶしに連中と打つんだが、皆ヘボでね。張り合いがないんだ」

「 わたしだってヘボ将棋ですよ。教祖の相手が務まるかな」

「 まーいいじゃないか。やろうよ」

悩みを相談したのだから、礼儀として付き合うことにした。

ところがどうだろう、教祖はなかなかの将棋の巧者だが、相手の顔をじっと見ると

考えてることが透けて見えるというか、相手の思惑が読み取れるのだ。

それなら相手の読みを外せばいいのだ。

勝負は圧倒的に優勢で進行し教祖は投了した。

「 うーんヤマちゃん強いじゃないか。しかも変なふうに」

「 これでも自分じゃ腕はたしかな方と思っておったのだが・・・」

「 そうですか」 私は無難な返事をした。

連中が観ているのも気づかない程勝負に集中していたようだ。

「 なんだ教祖、負けたのかよ。いつも大口たたくくせに」

「 馬鹿者! 最初は手を抜くのが礼儀じゃ」 教祖は真っ赤になって言い訳した。

みんな大笑いだ。


人生の秋に途方もない事が私に起こりつつあるのか。

ついこの間までは自分の意識がはっきりしているうちに、ポックリ逝くのが

最大の望みだった。というのもこれまで親や親戚を介護施設に見舞うことがあったが

虚ろで正規の欠けた表情になってしまった姿を見るにつけ、その想いは強くなった。

特に日本は年齢構成が逆ピラミッド型であり、その中で老人とは貢献できない生き物、老

人はお荷物と考えられている傾向がある。自分では若い者には世話にならぬつもりでも、

止む無くそうなってしまう事だってあるのだ。

先行きの不確かさと、この異常な経験は私にあらたな不安をもたらした。

「 そう悩みなさんな」 突然誰かが何か言ったようだ。

「 誰、誰ですか?」 私はビクビクしながら辺りを見廻しながら言った。

「 私はあなたの中のあなただよ」 その声は私の知覚に直接伝わってくるようだ。

言っている意味が分からずますます混乱した。

「 あのね、あんたの身体は大きく変わりつつあるんだ。その変化の過程で私は

生まれたんだ。つまりあんたは自分自身と会話しているんだ」

私は恐る恐る尋ねた。

「 するとあんたは私の脳味噌なのか」

「 そういってもいいね」 

「 するとあれはあんたのせいか?」

半分腰を抜かしそうになった私にわたしは言った。

「 そうだよ、あんたは身体の組織を再編成されつつあるんだ」

「 それはご親切に。いらぬお世話だ放っておいて下さい」

「 これからはあんたの希望に沿った変更が可能だ。私はあんた自身だからあんたを無視することはないよ」

 「 だったら私から出ていって下さい」

「 それは無理です。あのね、何度も言うけど私はお役にたちますよ」

「 たとえば、あなたは充分老化してるから、若返りたかったら組織の再生を強めればいいんだ」

「 放っておいてくれ、いや放っておいて下さい」

「 組織の完全な清掃とすべての腺の活動に呼び水を差せばいいわけだ」

「 さらに組織、器官、血液を清掃すればいい」

「 生物の身体は年齢と共に組織の病気や腐食を抱えてしまうんだ」

「 お説ご尤もだけど、私は今更若返りたくはない」

「 ただ、最近もの忘れやボケを感じるから可能なら脳のメンテナンスはやつてほしい気が

する」 いつの間にか私はわたしを認知していた。

「 脳の組織の掃除は精神の能力も強化するけどいいかね」

「あーうん」 能天気な私は深く考えもせず応えた。

そのせいで後々大変な経験をするとは思いもしなかったのだ。

私はいつの間にか熟睡していた。 目が覚め起き上がった。

時計を見ると11時をすぎていた。


--2--

窓の外を見ると太陽はすでに中天にかかっている。

「 よく寝たな、しかしやけに喉が渇く」 水を音をたてて飲み、新聞受けから新聞を

取ろうとすると一杯になっていた。同じ新聞を二部入れたんかい横着なやつだ。

なんじゃこれは、26日、と27日? 俺が寝っいたのはたしか25日だから・・・

「 じぇじぇじぇ!まる2日寝てたっ…つうこと?」

「 おはよう、よく寝てたね」 驚いてひっくり返りそうになった。例の私の中のワタシ

だった。

「 あんた年寄を驚かせてどうする」

「 もうそろそろ慣れてくれてもいいんじゃないの」

「 ワタシはあんたのパートナーなんだから。第二の私といってもいい」 

「 それは失敬したね。でもまるで押しかけ女房だな」

「 ところで仕事は完璧にやったつもりだが、試してみるかい」

「 何を?」

「 ボケは解消したかって事。そうだな簡単なところで円周率を言ってみて」

「 3.14159265358979・・・・何だこれは・・・」

「 オッカムの剃刀の刃とはなんぞや」

「 ある事柄を説明するためには、必要以上に仮定すべきでない。という指針でケチの

原理とよばれている。つまり・・・ なんだこれは・・・」

「 シェーカイ  今の君はもっと難しい問題だってできるよ」

「 普通でいいと言ったろうが」

「 聞いてないよそれは。もっと出来るよ。たとえば未来予測とか」

「 それならこれまでだって大よそのところは予測できたよ。悲観的な未来だがね」

私は情けない顔で言った。

「 君はこの先このままでいるつもりかい。今の君ならあーしたい、こーしたい、

こうなるべきだという見通しと、やるべき事を論理的に構築できるはずだ」

「 欲をかくのは嫌だが、まず死ぬまでの金銭的な余裕、つまり恥ずかしながら

ささやかなお金がほしいかな」 私は心もとない預金額を思い浮かべながら云った。

「 そうそう その欲望は正当なものだ」

「 じゃあこうしょう。いまの君の銀行口座にある金額では大暴れするにはいささか

心許無い」

「 誰が大暴れしたいって言った! それに口座を覗いたのか」 私はぶうたれた。

「 まあまあ硬いこといわないで」

「 じゃあ、こうしないか。今の元金は少ないから手をつけないとして、先の読める

クジでも買うのはどうかね。大当たり確実だよ」

「 ゲッ! 宝くじの事か? 当るのか ありえん」

「 あんた自身の能力を馬鹿にするなよ。簡単なことさ。疑っていても事は進まない。

まずは行動だ。起つんだ老人よ」

金が欲しいと云ったが。そんなに欲しいわけじゃない。倹しく暮らせばなんとかなる

のだ。そう思いながら駅前の宝くじ販売コーナーに足を運んだのは

第二の私という存在の言うことが本当か試してみたかったからだ。

私はわたしに慎重に確認をとりながら、1000円分のロト6を塗りつぶし

売り場のオバサンに渡して宝くじ券を貰った。

ここまできて、これが外れれば私は狂ったことになる。

「 信用が無いんだな友よ。まあ無理ないか、そのうち判るよ」

抽選日がやってきた。そわそわしている自分がわかる。我ながら情けない。

新聞を急いで開いた。ロト6と書かれた下に数字が並んでいる。抽選券を確認する

までもなく当っているのがわかった。

「 賞金を確認したらどうだい」 

「 えーと2600万だ」

「違うだろよく見ろよ、一等は6口当りと書いてるだろう。つまりあんたは5口

当ってるんだ」 

「 すると13000万か ゲゲゲ! どうする!」

「 やれやれそのくらいでビビッってしまって。小市民丸出しだな」

「 ほっとけ 信じないぞ、金を手にするまで」

「 まず銀行に行って引換え手続きだね」

「 面倒だなあ」

「 覇気がないね。もう一度精神注入棒を入れてやろうか、欲という名の」

「 金と格闘するのが嫌なんだよ」 ともかく第2の存在を私は認めてしまっていた。

結局、私はわたしに急かされて電車で銀行に向かった。

第一勧銀の窓口で案内を乞い、証券と表示されたの窓口で当たり券を渡すと、

女の子がPCを叩いて
当り券の記入欄と身分を証明する運転免許証を確認して

預かり証を受け取った。

「 確認の為この券は本店にまわされて、お受渡しは3日ほどお待ちいただく

だけでお支払できます」 行員は冷静な顔で云った。

「 すると金曜には受け取れますね」

「 失礼でございますが、その場合現金でお持ち帰りになるのでしょうか」

「 もし私どもの銀行に口座をお持ちでしたらそちらに入れるよう取り計らい

ますが」

「 口座はないんです」 途端に行員の顔がにこやかになった。

「 すぐにお作りしましょう。印鑑はお持ちですか。こちらへどうぞ」 と別の窓口に

誘導された。

「 定期預金になさったら・・・御利子も違いますし」

「 とりあえず普通預金にして下さい」

「 とうざのお要りよう分だけ普通預金では・・・」

私は一万円札を出し

「 第一私はまだお金を受け取ってはいませんよ」 と言った。

こうして残高一万円の通帳「ができあがった。

帰りに喫茶店に入り隅の壁を向いた席に座った。ここなら呟いてもわからんだろう。

数百万ならともかく、この大金は私には手に余る。

「 面倒な事で悩むのはいやだ。ワタシに責任をとってもらおう」 と思わず口に出た。。

「 それそれ、何をやるのも君次第だ」 奴め聞いていたのか。

「 それじゃ無責任だろう」 おもわず声が大きくなって、あわてて口を押さえた。

「 老人よ大志を抱けだ」

「 うるせー」 こいつに引っ張りまわされるのは嫌だ。

「 前から聞いてみたかったんだけど・・・」 と私はワタシに訊ねた。

「 どうして今頃になって現れたんだ」

「 君は胎内被爆したろう。あれがもとになっている」

「 たしかにおふくろは広島で被爆したよ。でも長生きしたんだ」

「 でもワタシのもとが君の脳のなかに生まれたのはその時らしい」

「 君は第二の意思とか言ったけど何故これまで出てこなかった」

「 時間が必要だったんだ、永い時間がね」

「 君は十分に老いた。組織や細胞はかなり傷んでいる」

「 ワタシが表面に出てくるにはそれが一つの条件だった」

「 もうひとつはスイッチを入れる為の強烈なショックだ」

「 わかったぞあの雷か! 」 私は思わず叫んだ。

「 でもあれは偶然だぞ、おれに雷が落ちなかったらあんたはどうしたんだ」

「 そのままだよ」

「 私があの時死んだらその時は?」

「 君と一緒にワタシも消滅しただろう」

「 すごい確率だ」

「 まあ君が生まれただけですごい確率だがね」

「 どういうことだ」

「 君が人間に生まれただけで、すごい確率だよ。細菌やバクテリアとして生まれる

可能性だってあったんだ」

「 多分ワタシは君にとって第二の脳、言い換えるとあんたの脳を共有する精神的なものと解釈していい」

「 君はワタシが感じるに、論理的な思考が得意じゃないね。直感的に物事を判断し行動し

てるね。つまり極めて単純ということだ」

「 うるせーこの野郎、言いたいことを言うなら他の人間に取り憑け」

「 それそれ、すぐカッとくるのは血圧上昇のもとだ」

「 改めて聞くけど脳以外に肉体もリフレッシュする気はないんだね」

「 もちろんだよ。最近まで夢も希望も無くなって、早くお迎えがこないかと

思っていたんだから」

「 こりゃ重症だ。まかせとき。完璧なポジティブ人間に変えてやるよ」

「 この前は初めてだったから慎重にやって時間がかかったんだ」

「 余計な事はするなよ。俺は今のままでいい」

「 まあ今でも以前から比べればましになっているがね」

「 だから大事にしなよ。残りの人生を」 ワタシが諭すようにいい、 おもわず私はウンと

いってしまった。

そうだ明日は教祖に相談に行くか。彼らの生活に波紋を投げるかもしれないが、意見を聞

くならいいだろう。



--3--

あくる日いつものルートをたどり河川敷にむかった。

季節は初夏に変わりつつあり、河川敷は春とは違う植物層に変わっている。丈が高く

紫に見えるのは荒地花笠の群落だ。青くさい草いきれの中をどんどん歩く。

ホームレスの小屋から人が出てきた。

「 ようヤマちゃん」

「 こんちわー 教祖はいる?」

昔は会計士をやってたというチョウさんだ。なにかヤバイことがあり、

逃亡生活を続けるうち、ホームレスになったらしい。

「 いるよ、将棋かい?」

「 いや今日は相談があってね」

「 わしらが頼りにされるようになったか」 こりゃ輸快だとチョウさんが笑う。

教祖が出てきた。じっと私を見る。

「 ヤマちゃん、変わったね。少しキリッとしてきた。前はもっと貧相な感じだったよ」

ホームレスから貧相と言われた人間は少なかろう。でも誉められたから礼をいった。

「 そうですかあ、ありがとう。また少し話を聞いてください」

私はこれまでの経過をみんなに話した。第二のワタシの下りになると、笑っていた教祖が

真面目な顔になった。幽霊か悪霊か、という意見もあった。

宝くじの話はみんな半信半疑だった。だから宝くじの引換証を見せた」

少しの間沈黙の時間があった。

「 そんな経験をすればオタつくのは当然じゃろう」

「 大金を得ても面倒と思うくらいだから、どうしたいという方向性も浮かばんの

じゃろう」

「 そうなんです」

「 そうか、大金を得ても必ずしも幸せになるとは限らんよ。じゃあわしの経験談でも

披露しょうか」

「 わしゃな、昔、繊維会社を経営しとったんだ」と語りだした。

彼は親父の後を継ぎ会社を経営していた。裕福な生活をし、家族にも恵まれて地元の

名士だったそうだ。おりからの景気に乗って彼は業績を飛躍的にのばし人々の尊敬も得

た。高度成長の波は止まる事を知らぬようにみえた。

しかし、やがて繊維産業は陰りをみせはじめた。彼は会社の業績を維持するため

金融機関
に大幅な融資を受け異業種に転換を図った。反対意見もあったが、

彼はカリスマ的な
存在であり、誰の意見も顧みなかった。その後バブルは弾け

崩壊が始まった。

あれほど強固と思えた会社の基盤はもろかった。会社はついに倒産し、借金地獄が

待っていた。家族は離散し、家も土地も全て失った。それでも借金は残った。

彼は逃げた。ながい放浪の末やっとここに落ち着いたのだ。

金は恐い。欲望は人を時に盲目にする。ただ欲と希望は表裏一体だ。

どこで満足するか判断はむつかしい。金の誤った使い方は人をいつか落としめる。

「 これが私の思いで話だよ。参考になったかい」

「 わしは金を捨てろって言ってるんじゃないよ」

「 正しく目標を定め、その為に金を稼ぐのは欲とはいわん。その行為は正しい」

「 欲望が人を破滅させるなら、あんたは人を救えばいい」

「 それができると思うよ、あんたなら」

「 私は自分自身も救えないんですよ。出来るんでしょうか」

「 今のヤマちゃんなら可能だよ。第一あんたには強力な助っ人がいるんだろ」

「 ハア、彼自身もしきりに頼りになると宣伝してますが、少し強引な感じがして」

「 それに、いきなり出てくるんですよ。もしもしとか、よろしいですかくらい断わってから出

てきてほしいんです」

「 もしもしよろしいですか、ご主人様」 出た・・・私のワタシだ。やはり聞いてたか。

「 随分信用がないんだな。他人じゃないんだから、もしもし・・・なんか言うのはへんじゃな

いか。 それに親切心で出てやってるのに、俺って損な性分…」 

「 急に同情を乞うな! わかってるよ、俺だってそれくらい」

「 ともかく教祖の考えをもう少し聞こうか」

「 どうした、ヤマちゃん」 私の沈黙に何か感じたのか教祖が言った。

「 ちょっと彼が出たんです」

「 教祖の今の夢というか望みは何ですか」 すると教祖は照れくさそうに言った。

「 あんただから正直に言うが、私には道楽があってね」

「 古文書を調べるのが昔からの趣味だったんだ。だからお宝、特に埋蔵金につい

てはちょいと煩いんだ」 

「 教祖にしては高尚な趣味だな」 建設業をやってたというヒロさんがいった。

「 うるさい、お前のように競馬やパチンコで身をつぶした人間と一緒にするな」

「 それで、いつの日かそれを見つけることを夢みてる。もちろん金を得る為だけじゃない、

自分で推理して見つけ出す作業、宝を見つけるまでの過程が楽しいんだ。いつの日かそ

れを見つけることさ」

「 そういえば教祖のねぐらには汚い本の束がいっぱいあったな」 コウさんがいった。

「 ただそれにゃ下調べに現場の調査も必要だし、発掘には機材がいるじゃろう」

「 なるほど、それで?」

「 見つけたらパァッと寄付して終りさ」

「 それはいいや。いまさら金を貯めこんでもな。俺たちは毎日別のお宝を回収してる

からな。ギャハハ・・・」 と自称もと会計士のチョウさんが言った。

「 私も一枚かませてもらえますか、教祖の夢に」 と私は言った。

「 まったくヤマさんは変わっているね。この連中以上に。まあ実際に行動する時は

協力してもらおうか」

ホームレスのメンバーが全員帰ってきて揃ったところで私は提案した。

「 どうですか皆さん、気に染まないかも知れませんが、全員住まいを移りませんか」 「 ど

こに?」 とみんなが聞いた。

「 アパートとかマンションです」

「 本当にわしらが住めるのか」 

「 買うのか?」

「 するとどうなるんだ?」

次々と質問の声があがった。

皆んな面白がっているが全面的に信じてはもらえないようだ。

中にはプアービジネスに利用されるんじゃ…という懸念もあるようだ。

「 仮にお前らがわしの道楽に付き合うとして、その期間がいつまでかかるものかわしにも

わからん。ヤマちゃんの話もあるし、ここらが転換期かもしれんな」 と教祖が

つぶやく。 

「 そのためには資金を稼ぐ必要がある。廃品回収では不可能だろう」

「 全員で意見を出し合い計画を練る必要がある。住まいを移し大半の時間をそれに集中するのだ」

「 わしらには失うものはない。変化は人を臆病にするが多少の変化を経験するのも

えーじゃろう。今までの気楽な生活を続けたい気持ちはわかる。しかしそれは不可能だ。こ

の間も市から役人が来て立ち退きを要求しおった」

教祖の言葉にコウさんが言った。

「 それに冬の寒さは最近こたえるようになったし、本当に出来るならわしはのるよ」

「 みんなが移るなら俺も行くよ」 

「 離れるのは嫌だよ、俺も行く」 

「 金はどうするんだ」 皆その気になったようだ。

「 私の名前でマンションを買います。場所はいいところを提案してください」

「 駅前にもあるぞ」 

「 川向うにもいっぱいある」

「 そこに俺たちが住んだら変に思われないか」

「 俺たちは賃貸契約として入居するんだろう」 

「 住人同士の交流は少ないというぜ」 

「 普通にしてればいいんだろ。大丈夫さ、平気、平気」

「 川向うのマンションなら俺たちの顔も知られてないだろう」

「 マンションに住んで新聞や空き缶を回収するわけにはいかんよなー」

「 それはまずかろう。見つかれば変な噂になるかも」

「 今度は俺たちがゴミを捨てる側になるのか」 すごい出世だな。

「 お勤めはしなくていいんだな」 

「 そうですよ」

「 ヤマちゃん、また宝くじを当てるつもりなら、それは止めといた方がいい」

「 それを何度もやれば注目される。そうなればあんたはヤバイことになる」

と教祖が注告した。

「 おっしゃるとおりです。だから皆さんの協力がいります。資金集めには競馬や

競輪、それと並行し株などの投資も行います」

「 ほんまに競馬を当てるというんか。スゲエ」

「 ヤル、ヤル、俺はやる。詳しいんだ俺」

「 アホ! そんなこと自慢するな」

「 ともかくマンションに行ってからだな」

私にはひとつ心配があった。メンバーの一人であるゼンさんのことだ。

以前、紹介された時、一人だけ年若く見える青年がおずおずと挨拶した。

善人のゼンさんだそうだ。俳優にしてもいいくらいの優男だ。

教祖によると彼は母子家庭で、性格がおとなしく、いじめの標的にされてから自閉症になり

以来大人になっても引きこもりだったそうだ。

母親が亡くなり、借金の担保だった家を出る事に。頼る人もなく、浮浪生活がはじまり公園

でうろうろしていたのを みかねてコウさんが連れてきたそうである。

他人にあまり干渉されないここでの生活は彼に安らぎをもたらしたらしい。

とはいえ自分から進んでものを言うこともなく、ニコニコといわれるとおりにお勤め

するらしい。毒にも薬にもならぬ感じの彼を誰も悪く言う者はいない。

たよりなく、今にも壊れそうで守ってやりたい雰囲気を身にまとっている。

だから移住に伴う環境の変化に彼が耐えられるかどうか心配したのだ。

「 ゼンさんは大丈夫でしょうか」 と私は教祖に尋ねた。

「 ふむ、確かに脆い性格を持っている。だがいつかはそれを克服せんとな」

「 相談してみます」 と私はワタシを呼び出した。

「 他人の性格、精神を強化できるかね? 他人の目を気にせず積極的に付き合い、行動

できるくらいポジティブにできないか」

「 出来るよ」 と彼はあっさり言った。

「 ただし本人がそうしたい思わないと精神の同期はできないよ」

「 そこのところは教祖から聞いてもらおう」

教祖に説明しゼンさんに聞いてもらった。 彼自身も自分の性格に忸怩たる思いが

あったようだ。

そうして私はゼンさんと向かい合った。緊張しているが彼は澄んだ目をしている。

「 目を閉じて、全身の力を抜いて、何も考えないで、私に心を委ねて・・・・

そうです。うまくいってます」 まるで怪しげな催眠術師になったようだ。

わたしは彼と同期がとれたのだろうか、心配だ。

「 終わりました。もうわたしの一部があなたに干渉を始めています」

「 ゆっくりと残すものと捨てるものをあなたの心と相談しながらね」

「 だから心配することはありません」

彼が再び目を開いた時私は驚いた。

「 有難うございます。本当に感謝しています。生まれ変わったようです」

彼のもの言い、態度は実に堂々としている。それに加え全身からただならぬ清らかさが

溢れている。まるで皮を三枚剥いだようだ。

これならすぐにも教祖のポジションを脅かしそうだ。

「 よかった実は心配していたんだ。 私のワタシは適当なところで歯止めをかけたようだ。

これ以上やると聖人だ」 私はワタシの能力を認めた。

半月後、2LDKの中古マンションを二軒別々に賃貸契約した。

メンバーに金を渡し、衣服と生活用品を購入するように言った。整髪し新調の服を着た彼ら

は別人のようである。自分好みに変身して生き生きしてみえる。

更に住所変更を届けてもらい、それが済めば、近くの銀行に口座を開くよう指示した。私は

中古パソコンを一台、安物のプリンターと一緒に買い元会計士のチョウさんの部屋に置い

て、どこでもいいからプロバイダーと契約するように言った。

そして全員にプリペードの携帯を渡し、落ち着くまでは電話連絡のみにした。

「 分からないことは管理人に聞く事、はめを外さない事、掃除はきちんとやる事、住民との

トラブルは極力避ける様に」 そんな心構えを入居時に教祖が話した。

一週間後メンバーを呼び出し、教祖の部屋に集まった。

ホームレスのイメージが完全に消え、教祖などはちょい悪おやじ風にイメチェンしてる。

「 さてみんな、いよいよ本番だ。資金調達のお勤めに入る。今回は全員で競馬に行く。

それじゃあヒロに説明させるから静かにしろ」 と教祖が言った。

「 あのね馬券を買うのは簡単なんだ・・・」 とヒロさんは嬉しそうに購入から支払を受ける

手順を滔々と説明した。要点を押さえ分かりやすい説明だ。

「 しかしこの六人が全レースを当てて毎回ゾロゾロ換金窓口に行けば目立たないか」

「 やり方を学習するだけだ。全員が毎回買わなくていい」

「 何だ、当たると分かっているのに・・・」 とコウさんが言った。

「 次からは二人で行ってもらう。ローテーションを組むんだ」

「 場外は駄目だょ。理由はわかるな」

「 他の者には別の仕事がある」

「 まずチョウにペーパーカンパニーを立ち上げてもらう」

「 いくら稼いでも、こんな国に税金で持っていかれるのは避けたい」

「 また運転免許を消失してる者はこの際取り直すんだ」

「 シンとゼン、お前らにはそれに加えてブルドーザーやフォークリフト等の

特殊自動車免許も取っておけ」

「 それから出来たら全員が介護士かヘルパーの資格を取るんだ」

「 教祖、簡単に言うが俺は勉強が苦手だ。勘弁してよ」 

「 そうだよ無理だ」 という声があがった。

「 そのことはヤマちゃんに打ち合わせてある。全員心配するな」

「 おれをゼンみたいにするのか?」

「 それはおまえにゃ似合わん。品性が抵抗するだろう」

「 なに、学習能力を少し上げてもらうだけだ」

「 ヤマさんはスーパー爺さんだな。何でもできるのかよ」

「 さあ? 私は普通の人間ですよ。ただ何度も説明するように、私の中のワタシが

そうらしいです」

「 親切に色々と手を貸してくれて感謝しています」

「 が・・・口が達者でいつも私が負けるんです」

「 大人になっても煩いオカンのようなものかな」

「 ピンポン! まさにそれです」 奴は聞いているんだろうなと思いながら私は言った。


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第4章 資金集め
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