道場に顔をだし宇津井家の養子の件を相談した。師範の三宅によると候補者を何人か

いるそうだ。早速宇津木家を訪れ和馬にその事を報告した。

「すまんな、世話になる」

「とんでもない、もとはといえばこちらが無理を聞いていただいたのですから」

「いずれも貧乏御家人の次男三男でありますが宜しいのでしょうか?」

「立花道場の猛者なら問題はござらん」 やれやれなんとかなればよいが。

泉屋の離れでかなめと津山に戻る支度をしている頃、甚八とおしんがやってきた。

ご老中が会いたいと云っているらしい。



「内海、来てくれたか、いつも済まんな」

「とんでもございません」

お主、国に戻ると云っておったな」

「左様でございます。こちらでの仕事もあらかた終わりましたので」

「ならば面倒をかけるがひとつ頼みたいことがあるのじゃ」

「わたくしめに出来る事なら」

「京都守護職より報告と依頼があってな。京の町が大変な事になっておるらしい」

「例の勤王の志士達の事でござりますか」 

「いまな、長州や薩摩を脱藩した浪士が京の町を荒らしておるのじゃ」

「その数が膨らんでな、どうも長州、薩摩藩と公家の一部が後押ししておるようなのじゃ」

「守護職のお役人はどうされているので?」

「やつらはあちこちの寺社に潜り込み神出鬼没でな、埒が明かないらしい」

「それはいけませんな」

「そこでじゃ、甚八、おしんとともに京に向かってほしいのだ」




京の泉屋の支店に着いたが賑やかだった町が人通りもまばらで不穏な空気につつまれていた。

いくら幕府の力が落ちたとはいえ、ゆすり、たかりや刃傷沙汰などおおぴらに起こすとは許されない。

守護職の役人、甚八、おしん達と打合せを行った。

要は一つずつ塒を襲うより、餌をまいて集まったところを一網打尽にする作戦だった。

折しも将軍家重の上洛が予定されている時宣であり、守護職の会津松平家は必死で騒動を

抑え込もうとしていた。

しかし浪士達はそれを嘲笑うように刃傷沙汰を引き起こしていた。それは金に飢えた狼のようである。

将軍上洛の諸費用を運搬する荷駄が三日後に瀬田の大橋を渡るという情報を流すのだ。

上洛費用は20万両、荷駄は10輌に及ぶという餌である。

やはり浪士たちはこの餌に食いついた。甚八の報告では潜伏先の寺社での動きが活発になっているらしい。

よし拙者は役人と共に人夫の中に紛れ込む




荷駄が四条河原を通り瀬田の大橋を渡御しょうとした時、左右から浪士たちが殺到してきた。

二重、三重に待ち伏せていた捕り方から鉄砲の一斉射撃が放たれた。

バタバタと倒れ伏す浪士、だが逃げ出す者はおらず荷駄に向かってくる。

武助は前に飛び出し次々と切り伏せる。その様を見て護衛役も荷駄を捨て浪士達と切り結ぶ。

そうして戦いは終わった。甚八に断り武助は歩き出した・・・・がその前に立ちはだかるものがいた。

「 ようも麿を虚仮にしてくれたな」 甲高い声で近づいてくる。どうやら例の公家のようだ。

怪しげな術を使い捕り方を翻弄してきた者だ。

「 ホーホッホホ、お主何者でおじゃるか。人にしては良い動きよな」

「・・・・・・・・」

「 まあ良い、京には人外のものがおることを知らなかったとみえる」

「・・・・・・・・」

「 黙んまりでおじゃるか。ならば麿の鞍馬流で引導を渡すまでじゃ」

周囲に黒い霧が立ち込めた。武助はただ様子を見ている。

突然佩刀を抜きはなった公家が羽ばたいたと思うや宙を跳んで上から襲い掛かってきた。

今まで相手をしたことのない速さだ。

流石の武助も防ぐのに精一杯で押されている。

「ホホホッホ、かなりの腕利きとみたがそんなものかえ」

しかし突然武助の懐からシロがギャウーと顔を出し威嚇した。

怪しげな公家は扇子で顔を覆い一瞬の隙ができた。それを見逃す武助ではなかった。

ただ一刀で切り伏せると魔物のような公家は黒い霧となって消え失せた。

「 いやー、シロのおかげで命拾いをしたよ、ありがとうなー」

シロがニャーと鳴いた。

遠くで様子を見ていた甚八が恐る恐る近づいてきた。

「 内海殿、あれは何でありますか…?」

「 京に住む人外のものと申しておりましたな。いやー拙者も危なかった」

「 京に住む化け物ですか・・・・、桑原桑原」 

「 それでここはお任せしてよろしいかな。これ以上面倒ごとは勘弁してほしいもので」

「 や、これは失礼、御面倒をおかけしました。後のことはお任せください」

しかし思った以上に速く始末ができたもんだ。これで薩長も公家もしばらくは静かにするだろう。

こんなことに関わらず国でのんびり若い連中の手助けをしたいものだ。




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十三章 老中の頼み

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第十四章 開墾始まる
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