第三章  元ホームレスとの出会い



いつもの様に草刈機を走らせる。ほんとにこの河川敷は広い。刈り取りが終わった所では

小さな鳥の群れが何かをついばんでいる。その向こうではゲートボールや

ゴルフクラブを持って振り回している人もいる。

土手を刈っていると遊歩道でこちらを見ている人がいた。

「 今日は! 」 と云うから、こちらも挨拶した。そんなにこんな作業が面白いかな。

「 以前、そのあたりにホームレスの小屋があったんですよ」

「 ん・・・そうですか」

「 じつは私はそこに住んでいたんです。懐かしくてぶらっとやってきたんです」

見たところそんな風体にはみえない。

「 少しはましになっていますが、実はホームレスだったんです」

「 ヘエー、あっこれは失礼」

「 あなたは、気持ちよさそうに作業してますね。まるでジバのようだ」

「 それはどうも、はい実際気持ちよく仕事をさせてもらってます。それでジバってなんですか」

「 あなたのように仕事が好きな人たちですよ」

「 外国からの出稼ぎの人ですか?」

「 ははは、いきなりジバと言ったらそう思いますよね。その人達は全員お年寄りです。

それが途方もなく元気なんです」

「 そんな人がねー?本当にいるんですか。ここの親方にお前みたいな奴はめずらしいと

云われてますが・・・」

どうです?仕事が終わったら私達の所に話に来ませんか?」

「 宗教関係の勧誘をされてますか?」

「 ははは、無理もありません、いきなりですからね。私はこういう者です」 と名刺を差し

出した。鈴木善人とある。住所はアルメーゼマンションか。その時不意に私の脳がピクッと

反応した。何だろう?。

「 おや、あなたは他に仕事をされてますね。ほう珍しい仕事だ。占いと用心棒とは」

「 ウエッ、そんな事まで判るんですか。驚いた、あなたも占いが出来るんですか?」

「 占いと云えるかどうか。興味があれば一度いらっしゃい」 と立ち去っていった。

仕事を終え、一旦アパートに戻ってシャワーでサッパリした後、紙屋町にでかけた。

「 チワー来ました」 と師匠に挨拶する。

「 待ってたのよ。わたし大事な客のところに行かなきゃならないの。店番をしといてよ」

「 そうですか、まかせて下さい」

「 えらい自信たっぷりね。そういえば特に今日はしっかりしてみえるわ」 と言って師匠は

出かけて行った。誉められて悪い気はしない。

客は当分来ないと見極めてソファーで仮眠をとった。

腹が減って目が覚めた。向かいの店でパンと牛乳を買って腹を満たした。

日が沈むころ今日初めてのお客がやってきた。

名前だけ教えてもらった。富沢美子さんだそうだ。

私の頭の中にふっと犬の姿が見えた。なんじゃこれは・・・ 私は動揺を抑えて言った。

「 えー、失せものですね、それはワンちゃんですな」 なんでも解かっているように少し

偉そうに云ってみた。

「 えーっ、解かるんですね! すごいわ。そうよ、ジンちゃんがいなくなって2日も経つの。

どこにいるのでしょう?可哀想に」

「 まあ、まあ、落ち着いて下さい」 と富沢さんを宥めた。

「 だいたい犬なんてものは帰趨本能があって黙っていても帰ってくるもんです」

「 なんてひどい事をおっしゃるの。うちのジンちゃんは普通のワンちゃんと違うの。

とても高級なの。帰趨本能なんて野蛮なものはないわ」

「 それじゃあ、犬じゃあありませんよ」

「 ともかく探してみましょう」 私は富沢さんの顔をじっと見つめた。そうすれば何か情報が

探れるかも・・・と思ったのだ。

しばらく何もおこらなかつたが、やがて小さな犬の姿が浮かんだ。焦点をこらすと

公園か何かか?。いやその向こうにマクドがある。それと本屋の看板も。これは

駅の近くの公園じゃないか。いや間違いない。

「 富沢さん、場所が判りました。駅前の北に公園があるのをご存じですか?」

「 その公園のトイレ付近にいます。直ぐに行って下さい。いや一緒に行きましょう」

私は公園に走った。店からはかなりあるからさすがにきつい。

やっとその場所にたどりついた。

「 おい、ジンでてこい。おまえの過保護なおばさんが探しているぞ」 と叫んだ。

おばさんの臭いが移っていたのか、情けない顔をしたジンが顔を出した。

追いついてきた富沢さんにジンを渡した。礼もいわずジンを抱きしめる富沢さんを後に

店に戻った。

「 さっきのは何じゃろう? 俺にはそんな力があったのか、不思議だ」

店には待っている客がいた。

「 ごめんね。今犬を探して留守にしていたんだ」 と訳をはなした。

お客は、ケバイ女の子だった。

「 名前だけで結構です」 

「 ふーむ、すばり言いますと、あなたはじょーじとやらに恋をしていますね」

「 丈二って何で分かるの? わたし何も言ってないのに」

「 私には分かるんです、彼が浮気しているかどうかでしょう?」

「 いやだー、そうよ!」 私はいい気になってふんぞり返った。

「 失礼ながら、その人はピアスやらイヤリングやらトッポイ格好してますね。それなら今、

灘という飲み屋の美香という人や他にはミドリとかいう人とも付き合っています」

「 類は類を呼ぶというでしょう。そんな男に引っかからないように、もっと大人しい格好をお勧

めします。それでも良いと仰るならべつですが。ご自分を大切になさい。今回は以上です」

 と目頭をおさえる女の子に言った。

次の客にも的確な?回答やアドバイスができた。一体どうなっているのか自分を自分が

信じられない。しかし変な自信がわいてきた。

衣服の販売をやっていたから、人の目利きはある程度自信があるが、これは出来過ぎだ。

来る客にたいして待たせることも無く効率よく仕事をこなした。

数時間後帰ってきた師匠に売り上げを渡そうとした。

「 大したものじゃない。それはあんたの開業資金に廻しなさい」 と言ってくれた。

「 明日は少し遅くなってもいいですか?用事ができたんです」 と師匠に言った。

「 いいわよ。今日は無理を言ったからね」

仕事を終えアパートに帰る途中、別の通りでヤクザ同士がガンの付け合いをしていた。

「 ヤバイ街だな。まったくこの町の警察は何をやっているんだ。ちっとも仕事をせんな!」

とぼやきながらアパートに戻った。

翌日、久しぶりにスーツを着て先日会った鈴木善人という人の住む町に向かった。

どう考えても昨日からおかしい。原因があの人にあるような気がしたからだ。

アルメーゼというマンションには鈴木さんは留守でコウという人が出てきた。

「 もうすぐ帰ってくるからよかったら部屋で待ってたら?」 と気さくにいう。

「 あんた若いな。仕事は何やってんの?」 ということはこの人は占いは出来ないのか。

仕事と鈴木さんに会った経緯を話した。

「 ははーやられたね。あんたは選ばれたんだ」 んー?訳がわからない。

「 あいつはわしらの中では出来がいいんだ」 何のはなしだろう?。

「 いきなり、こんな事を言っても信じられんだろうが・・・」

「 わしらはホームレスじゃったんだ。ある日山内という年寄がやってきて、わしらを変えた

んだ。つまり、わしらの意識を強化したんじゃ」 ???

「 ゼン、鈴木のことだが、もともとあいつは素質があったんだろう、わしらより大きく変わった

んだよ」

「 つまり私の占いの腕が上がったのは鈴木さんのせいでだと?」

「 他に考えられるのかね? まーいーじゃないか変化を活かすんだよ」 と語る。

「 ここにはホームレスから出世した仲間が他にもいてね。紹介するよ」

隣の部屋には5人の自称元ホームレスがいた。チョウ、ロク、シズオ、シン、それに教祖

だそうだ。シズオは男だが格好は女だ。そして頻りに秋波を送ってくる。

「 気おつけろよ、喰われちゃうぞ」 とシンという人がふざけていう。 

「 おまえ、街の用心棒やってるんだって、若いのに感心だ。本通りだって?

 何かあったらいつでも呼んでくれよ。暇で困ってるんだ」 この人も変わっている。 

「 みなさんお仕事は何をされてるんですか?」

「 いろいろだよ。ひとつは簡単に言って人助け、もうひとつはリサイクル業だよ」

「 君は面白そうな人だな。最近の若い者とは毛色が違うようだ。きっとここの

人間と話が合うと思うよ。いつでも来なさい、歓迎するよ」 と教祖という人が言った。

私は礼をいって、その足で本通りの店に行った。



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第4章 助っ人来たる
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