第四章  助っ人来たる


店には列が並んでいた。おお今日は大盛況だ。

「 あんた、遅いわよ、待ってるのはあんたをご指名のお客よ」 ゲッ 俺を指名?。

「 ちょっと面白い人達に会ってたもんで」

「 あんたより面白い人間がいるの!」 師匠は少し怒っている。

ソファーの前にパイプ椅子を持ち込んで列を招き入れた。

「 お待たせしました。最初はあなたですね。以前来られた方ですね」

「 そう、松本仁美、以前お弟子さんに診てもらったでしょう」

「 あー、3つ悩みがあった人ですね」

「 そうよ、おかげでうまくいったのよ。あの女は居ずらくなって辞めたわ」

「 そしたらみんなしかとするのを止めたのよ。うれしかったわ」

「 そうですか、それはよかった。すると今日は2番目の悩みで来られたんで・・・」

「 違うの、一番目が解決したら2番目も解決したの。お弟子さんのお蔭だわ」

「 すると問題は3番目ですね。ははあ便秘ですな。それも強度の」

「 そう、大変なの、医者に行っても、薬を飲んでもがちがちよ」

「 ふむ、貴女の大腸がコブコブになってますね。このままでは危ないですよ。大腸が癒着した

人を知ってます。その人は手術して助かりましたが」

「 いやだー、なんとかしてよー」

「 と云われても私に医者の真似は・・・ あっ、ちょっと待ってて下さい」

すぐに私はあのゼンさんに電話をかけ、事情を話した。

 するとそちらに行くと云ってくれた。ありがたい、なんて親切な人だろう。

女の子に少し待つようにと云って、次の客を呼んだ。

その後もてきぱきと客を捌きやっと一段落したところに、ラーメン屋の李さんから携帯に

すぐ来てと要請があった。

駆けつけるとチンピラと一目でわかる連中が二手に分かれて睨みあっている。

蒼い顔をしている李さんに聞くと、この店のみかじめ料をめぐってもめているらしい。

「 そんな話はよそでやってくれよ。商売の邪魔になるから」 と二組の間に入って言った。

「 何だこのやろう。引っ込んでろ。だいいちおめーは誰だ」

「 さあ、だれでしょう」

「 この野郎、なめた口をききやがって、よしこいつからたたんじまえ」 と蹴りを入れてきた。

その足の内側にローキックを入れると、次に殴りかかってきた奴の腕を取ってひねり、体重を

かけた。悲鳴をあげるヤー様を離し、次の相手に対した時、

「 マテ、マテ、マテー 俺にまかせろー」 と聞いたような声がしたと思ったら、ゴキゴキと音が

してバタバタと周りに倒れるヤー様の姿が見えた。

シンさんという人だ。

「 ありがとなー 残しておいてくれて」 とわけの判らない事をいう。ともかく連中を片付ける

ことにした。1分もかからず十数人がうめいていた。

救急車を呼んでもらい、店にもどった。

「 シンさん有難う、助かりました」 と云うと、いつでも呼んでくれよと言う。

「 俺はこんなことが大好きなんだ」 けったいな人だ。しかしすごく強い。

店に入ると鈴木さんが女の子を診ていた。

「 腸にさぼるなと指導しておきました。もう大丈夫です」 と安心させていた。

やっぱり、この人は特別の力を持っているようだ。

程なく女の子はトイレに発った。5分して出てきた彼女はえらくスッキリした顔をしている。

「 どうですか?スムージーでしたか」 と冗談めかして聞く。

「 有難う。ものすごかったわ」 確かにむくんだ顔ではなくなっている。

「 それはよかったですね、また何かあればいらっしゃい」 と送り出した。

わたしは改めて鈴木さんとシンさんに礼を述べた。

「 大したことではありません。元々人は元気であるべきなのですから」

「 それにしても、すごい事とだと思いますよ。鈴木さんのような人がいれば、世界中の人が改善されますね」

「 わたしのことはゼンと呼んで下さい」

「 それに公園の鳩にえさを撒く様にはいきません。これでも私は事前にその人の内面を

慎重にリサーチしています。私の関与がその人に悪い影響を与える事だって考えられます

から」 ははー? そうなのか。いまひとつ理屈が分からない。

「 おまえ、なかなかいー奴だな。俺とは気が合いそうだ。また来いよ」 とシンんが言った。

彼らが帰るとカーテンから様子を窺っていた師匠が出てきた。

「 まったくあんたには驚かされるわ」

「 僕もこの展開に驚いています。そうなったのは師匠のせいですよ。まあ面白い展開では

ありますが。」

「 何よ!他人事みたいに」

「 それでも、ここの仕事は一応こなしているのだからいいじゃないですか」

「 それにあのゼンという人は何者?すごくいい男だけど・・・」 先生は気になるらしい。

「 私達と違ってあの人は本物ということです」

「 私達ってなによ、失礼だわ」 自称天才占い師は傷ついたらしい。

「 つまりレベルの違う人と云うべきでしょうか」

「 おまえか、組の者を痛めつけたのは?」 人相の悪いのがいきなり店に入ってきた。

「 どちら様です? 私は巻き込まれただけですよ」 

「 よく云うぜ! お前何者だ? わしゃあ捜査一課の蛭田だ」 恐れ入ったかという顔をして

ギロッと目をむいた。

「 そうですか。それで刑事さんが来られたのは?」

「 てめえしらばっくれるのか!」

「 はあ、はあ」

「 おまえ、ここで何やっている?」

「 ここで仕事をしています。占いの勉強です」

「 かっ、いい度胸してるじゃないか」

「 本当のことですよ。うちの師匠に聞いてください」

「 そうかい、まあ用心するんだな。このままで済みそうにないからな」

「 街の治安を守るのは警察の仕事でしょう」

「 この野郎お上に反抗するのか」 まあ警察の体質はこんなものだから驚かない。





 よし、お前を徹底的にマークする。後悔しても知らんぞ」

「 まるでヤクザの脅しだな。それより私の様な者を相手にするより暴力団の一人でも捕まえ

たらどうです?」

「 おまえ警察を敵に廻したな、罪状なんかいつでも作れるんだ」

「 さっきからそんなことばかり言ってますね」

「 よし、今日はこれくらいで勘弁してやる」 と出ていった。 

「 やれやれ」

「 無鉄砲ね。しつこいのよあの刑事は。ああやって袖の下を要求してくるのよ」

「 ご迷惑をかけたのならお詫びしますし・・・」

「 辞めるなんて云わないでよ! あんたのお蔭で繁盛してるんだから」

「 はあ、当分そんな事はありませんよ。やくざが手を引くまではね」

「 男気があるわね。もう少し若かったら放っとかないわ」 おえっ、勘弁してほしい。

「 とんでもない、師匠は十分若いし溌剌としています」

「 いつからそんなに口が達者になったの。でもうれしいわ」

「 前の商売柄、誉めるのは得意なんです」

数日が経った。本通りは何事もなく、元の通りに戻っていた。李さんのところにラーメンを食べ

に寄った。店は小さな行列ができるほど繁盛している。

「 李さん、繁盛してるね」

「 ヨコキさんのお蔭よ。多謝、多謝ヨ」

「 帰りにチャーシュー持って帰ってよ」

「 いいの? ありがとう、うわっ、すごい塊だねこれは」

一人では食べきれない量だ。何かあったんですかと聞いた。九龍会がまた来たそうだ。

これはどうにかしないといけない。

昼の仕事は一段落し行かなくてもいいのだ。次の日、アパートの尾田さんと小野さんちに寄り

チャーシューを分けた。そこでまた新商売の話がでた。しかし先立つものが不足しているから

話は尻切れとんぼになる。

幼稚園の送り迎えは大して資金はいらないから細々と続けているらしい。中には上客がいる

らしい。一枚加われと云われたが今は無理だと断った。酒盛りは明け方まで続いた。

二日酔いでベッドで唸っている時、シンさんから電話があった。

「 あんたの町、相当やばそうだぞ」

「 今にもドンパチが始まりそうだ」

「 俺の調べたところ今にも出入が始まりそうだ。町に迷惑がかからない内に潰した方が

よくないか?」

「 何をどうやって潰すんですか?」

「 決まってるだろ全部ぶっ潰すのさ」

「 そんな事無理だ。いくらシンさんが強くても」

「 だから助っ人を呼ぶんだ。出入の好きな宇宙人だ」 もう何を言ってるか全然分からない。

この人は大丈夫か?。

「 疑ってるな! よし宇宙人をアパートに連れて行くぞ」

「 いいですけど、その人は芸人さんですか?宇宙人という」

「 馬鹿こけ、正真正銘の宇宙人だ。会ってから驚くなー ひ、ひ、ひ」 とシンさんは笑う。

昼前になってシンさんがやってきた。その後ろに背の高いいい男が付いてきた。

座る椅子がないのでベッドに腰をおろしてもらった。みしっと音がする。体格はいいが見た目

より体重があるのだろう。面白そうに部屋を観察している。

「 宇宙人のAだ。そしてこの人は横木のこうちゃんだ」 と紹介してくれた。

挨拶してお互い見つめ合った途端、すぐに本物と認識した。

「 うぇっ、本間に宇宙人か!」 思わず声がでた。

「 だから云ったろう。これが出入の好きな宇宙人だ」

「 おどろいたー。宇宙人に会うのは初めてだ。旅行か何かで・・?」 びっくりして俺も

つまらんことを聞く。

「 そんな事どうでもいい。一つずつ早いとこ潰していこう」 シンさんがいう。

「 まず神道組だな、すぐに行くぞ」 シンさんはやる気まんまんだ。

組の近くに車を止め、事務所に行った。玄関前にたむろしているチンヒラがバラバラと

駆け寄ってきる。

「 おどれら、羽島組か九龍会か」 という連中をものをも言わずシンさんがぶちのめす。

Aという宇宙人は嬉しそうにチンピラをつかまえて事務所の2階まで投げ飛ばしている。

信じられない程のバカ力だ。

「 よしコウ、お前は3階だ、A、お前は一階だ、いくぞ」 重い扉を無理やりAが開き、私達は

室内に乗り込んだ。銃を打ってくる者がいるが何故かはじき返されている。

3階まで駆け上がり、出てくるちんぴらを痛めつける。下でウオーという声が聞こえ事務所が

大きく振動した。私は下に駆け降りた。シンさんも出て来た。

「 ちきしょう、またAがやりやがった。家がつぶれるぞA出てこい」 と叫んだ時、

ヤクザの事務所は大きな音と共にペシャンコになった。埃の中から悠然とAさんが

出て来た。私達はシンの指示で2台の神道組のベンツを奪って行った。

羽島組にはその車で突っ込んだ。その後は同じだった。散々暴れた後、事務所は

崩壊した。

次だ、次だ、もうシンさんの眼はすわっている。

九龍会は事務所では無く、クラブと中華飯店を根城にしている。

Aがその前で大声で何か言っている。

笨蛋、王八、女馬夕的、?嫣・・・・ 中国語の悪口のようだ。

頭にきたらしく中華包丁や、鉈など物騒な物をかざして飛び出してくる。

素早くそいつらを片付け、店の中に躍り込む。湧くように大勢出てきたのを

バキボキやっつける。中にはウージーを持った奴がいて打ちまくってくる。

Aが大きなテーブルをすごい勢いで投げつけ沈黙させる。

シンさんも、Aさんも嬉しそうだ。こいつらゲームのつもりか。

粗方ゴミ掃除が終わったところでAがホールの支柱をゆさゆさ揺すりだした。

「 わ〜あぶねえ逃げるぞ」 とシンさんが合図したので外に飛び出した。

中華飯店は潰れた。まだAは出てこない。私は心配した。下敷きになったんじゃないかと。

ところが今度は隣のクラブが揺れ出し、ついにぶっ潰れた。

濛々とした埃の中から高笑いがする。走り寄ると両手を挙げたAさんがファーファーファーと

喜んでいる。ウルトラマンの怪獣みたいだ。

帰りの車の中で、質してみた。

「 そりゃ誤解だよ、世の中の暴力団は消すべきだから使命としてやってるんだ」

「 本当かな? どうみても出入が大好物にみえるよ」

「 ばれたか! まあそんな面も一部あるな」

「 でもこれで店を持つことが出来るかもしれない。有難う」

「 どういうことかわからんが良かったな」

「 それでね、是非自治会長との交渉についてきてほしいんだ」

「 本通りの自治会長と約束したんだ。暴力団を追い出したら1000万と空き店舗を提供する

と云ってくれたんだ」

「 でもその自治会長が食わせ者でね、前言を翻すかもしれないんだ」

「 おーそういうことならまかしとけ」 

「 会長さん、以前暴力団を追い払ったら1000万と空き家を提供すると云われましたね。

あの約束はまだ有効ですか?」 と自治会長に聞いた。

「 おーあれか、もちろんだよ確かに約束した」 人を馬鹿にしたような顔だ。

「 そうですか。じゃあ、頂だい」 と云うとポカンとしている。

「 暴力団は3つとも潰しましたから」

「 何いってるんだ。お前、いやあんた殴られておかしくなったのか」

「 信用しないんですね。案内しましょう、見に行ってください」

「 何馬鹿言ってるんだ。そんな事ありえない」

「 金が惜しくなったんですか」

「 社員に調べさせよう。おいお前、ここまで云うんだ見てこい」 と顎をしゃくる。

見に行った社員から3つとも潰れていると報告してきた。

会長はへらへら笑っている。何か汚い事を考えているようだ。

「 確かに追い出したら・・・といったが潰せとはいってない」 だから約束は無効だ。

「 そうくると思いました。じゃあまた」 

私はAに合図を出した。鎖の外れた熊のようにビルの柱に体当たりした。

安物のビルは一発で傾いた。

「 おや、どうしたんです。会長、何か階段が,捻じれてるようですが気のせいかな?おや会長

大丈夫ですか。震えてますね」

腰を抜かした会長はすぐに金と隣町の空き店舗の権利証を出した。ヤクザの方がましだと

言っている。だいたい法外な金利で庶民から絞り取った金ではないか。

時間のあいた時にどこかの司法書士で登記名義を変更に行かなくてはならない。

わたしは師匠にこれまでの礼を云った。

「 やっぱり辞めるの。客も増えて助かってたのにねえ。でも凄いわよ、半年足らずで店を

持つなんて」

「 頼りないあんたがねー、信じられないわよ」

「 私は変わりませんよ」

「 でも会長から、金と店舗をむしったんでしょう」

「 会長の約束を守ってもらっただけですよ」

「 あのおやじ、今になってぐじぐじ云うのよ。あんたを紹介したのは私だって!」

「 でも、この通りも静かになったでしょ」

「 そうよ、あんたのお蔭よ」

それじゃまたと云って本通りを後にした。

早速店舗を見に行った。猿楽町という聞きなれない町だ。

静かな商店街である。これはケバケバの看板は無理だな。

店の中に入ってみる。幅の狭い空の棚が幾つも設置してある。どうやら書店だったようだ。

2階はフローリングでシステムキッチンとトイレがあり風呂は無い。

隣は6畳くらいの居間がある。

よし明日から片付けだな、これは一人では無理だから3兄弟に助けてもらおう。

「 できるかい」 アパートに戻り3兄弟に聞いてみた。

「 いいよ、暇なんだ。日当1万円と聞けば断われないよ」

「 内装は俺に任してよ、経験があるんだ」

「 問題は書棚だな。でかいんだろう。捨てるのが大変だ」

「 そうかー、うー、ならば、それはあのリサイクルをやっている人に打診するか」

わたしは元ホームレス軍団に電話してみた。明日引取りに行くと言ってくれた。

「 わしらは出世してな、作業場を持っているんだ。まかしとけ」

脱サラし半年、思いがけず店を持つことができそうなのだ。心が高ぶるのを

押さえきれない。

あれも、これも偶然の人のつながりでここまでこれたのだ。

だからできるだけ世話になった人達には恩返しが出来たらいいと思う。

明日を楽しみにあれこれ考えるうち眠りについた。



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第5章 開店
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