第十四章  米国怒る



山から田中さんが:マンションにやってきた。ボンの親も連れてきている。

私達はボンと養護施設の子達も連れてチャーターしたバスで限界村にでかけた。

村の名前は限界村のままだが、それは年寄がふざけてそのままでいい、と言ったからだ。

ごみごみした都会の喧騒から離れ、中国山地の自然にふれて子供たちははしゃいでいる。

犬たちとの交流もうまくいっているようだ。

村の敷地が広がるにつれ、保健所から連れて来た犬も増えている。

政府から特別区の限界村を公表したが、大した騒ぎは起こらなかった。

しかし、国民はなにかしら、この一、二年、大きな力が社会変革に向けられているという予感をしていた。

戦後70年が経過したが、口ばかりかっこよい政策を政治家は掲げるものの

政治家や役人などの縄張り意識ゃ既得権益を守るためのザル法、低所得者無視の

増税等、国民を向いた施作は停滞し一向に暮らしは良くならない。

一時、高度成長等によりその恩恵を受けたものがいるが、バブルの崩壊などで、経済は

低迷し、ローン地獄、リストラ、就職難に苦しんでいる人は多い。

しかし国民は文句は言うが、大きな変革を望んでいないらしい。

学校でのいじめ、自殺、それを隠そうとする教育委員会、年寄の年金をかじり仕事をしない

若者、生命保険殺人、スマホに頼る若者、生活保護の不正受給・・・。

それでも大きな構造変革を望まないのは何故だろう。

私にしても最初はこの国の事など、あきらめていたのだ。

しかしワタシとの出会いで徐々に変わっていった。ジバを見た時には確信したのだ、

この国を変えれる・・・と。

中国山地のこの村は県を跨いで細長く東へどんどん順調に延びている。

また私達の介入で政府のエネルギー対策は順調にいっている。水分解水素による安価な

発電は国内の企業も家庭も恩恵を被っている。更に尖閣周辺の原油採取により企業、

農家も同様の製造費コストダウンの恩恵をうけている。

国の借金も大幅に減り内閣支持率は80%以上を維持している。

経済は絶好調で、国際的な信用度は右肩上がりだ。

だから政府は我々が何をやろうが黙っている。

黙ってないのは米国である。様々な手段で脅しと介入を試みてくる。

共和党のスッシュ大統領は怒っていた。

黄色いジャップが我々以上に経済発展し、海外援助で目覚ましい成果をあげている。

国際社会は米国ではなく日本に目を向けている。

国際基軸通貨はいまや円になりつつあった。

敗戦国のジャップが怪しげな手段をもって国際バランスを壊していることは

由々しきことである。我々は正義の鉄槌を下す用意がある。

「 アメリカは常にbPである。正義は必ず勝利する」 とすでにけんか腰だ。

まずは安保条約を解消すると脅したが、「 いいですよ」 としらっと言ったきりだ。

次に以前水分解技術をよこせと言ったが日本は拒否した。

これまでいいなりだったのに生意気なやつである。

日本政府はわがUSAの武力を過小評価しているのか。

偵察衛星や、無人ステルス機を飛ばしても自衛隊の様子は以前のままである。

全くわけが分からない。

ただエシュロンによる分析では所属不明の空母とか爆撃機とかいう単語がでてくる。

日本は9条に縛られてその様な戦力は所持していないと言明している。

日本の亜部屋首相は相変わらず調子のいいラッパを吹きまくっている。

あの阿保をまず消さなければならない。

いままで特異能力者を使って鬱にしたり、ビルから飛び降りさせたりして

都合の悪い人間を消してきたのだ。

米国は密かに異能力者とヒットマンを送り込んだ。

日本に入って来る者は全部チェックするのは不可能である。

米軍の船で密かに入国する者はどうしても洩れてしまう。

さすがのワタシでも察知するのは無理だった。

国会議事堂や首相官邸は厳重に警備されているが、この首相は料亭、ゴルフ、地方視察と

あちこち動きまわる。

初めに異常に気が付いたのは首相の中のワタシだった。さっきまで街頭でおばさん達に

愛想を振りまいていた首相の脳が異常に高ぶって行動に落ち着きが無くなったのだ。

とっさにブロックすると共に周囲のワタシに調査を命じた。

いた! 人に紛れてこちらに念を送ってくる者を。若い女だが白目むいている。

さらに向かいのビルに銃をかまえている人影を脳に捉えた。

情報は全てのワタシが共有している。ヒットマンの指がトリガーを引こうとするが

力が入らない。要人警護部隊が素早く拘束した。異能力者は必死で能力を解放しようとする

が首相の前に火花がちるばかりである。やがて女は崩れ落ちた。

SPが駆け寄り身柄を拘束する。

「 守っていてくれたのか!」 首相がホットしたように云った。

「 そうですよ、だけどあまり無茶はしないでください」 頭のなかで誰かが答えた。

犯人はスラスラ白状した。CIAの暗殺担当だそうだ。

「 ウゲッ、本当に米国が・・・」 首相は絶句した。

「 まず間違いないでしょう」 

「 よしすぐ抗議しよう」 オッ、立ち直りが早くなったな。

マスコミも報道し、それは世界を駆け巡ったが、米国は頑として認めようとしない。

「 このような悪辣な行為をアメリカは許さない」 とかえって増悪をむき出しにしている。

「 まあ心配ありません。米国が戦争を仕掛けようと我々が対応します」 

と首相に伝えた。

日本を潰せばまたアメリカの栄光は戻ってくると思っているらしい。

まず第五、第七艦隊を小笠原近海に、そしてグアムからB2の編隊が領空侵犯を始めた。

さらに日本近海には原潜がうろうろしている。

当然日本は恐れ入って詫びを入れてくるだろう。そうしたらあの技術を差し出せ

と言ってやるのだ。

ところが日本は何も反応しない。普段と変わらぬ生活をしている。マスメディアも

一向に報道しない。馬鹿じゃないのかこいつらは。 

米国は演習と称する示威行動を続けている。

そんな米艦隊の近海で時ならぬ強力な低気圧が発生した。途轍もない大波の壁が第七第五

艦隊を襲った。沖を見ると何十本もの竜巻がこちらにやってくる。慌てて退避しようとするが

竜巻は凄い速度で追いかけてくる。あたりは真っ暗になり電光が飛び交う。

超特大の雷が次々と落ち、艦船は火を噴いている。

恐怖の時間が過ぎ、あたりは静かになった。小さな船だけが波間に漂っている。

「 オーマイガッ!」 艦隊からの連絡が途絶えたのでやってきた偵察機は信じられない

光景を本国に伝えた。

莫大な予算を使い作り上げた艦隊が2セット消えたのだ。冷静な頭を持つ者ならここは一旦

引くところだろうが、甘やかされて育ったスッシュは面子を潰され、命令した。

よし核攻撃だ、日本を瓦礫にかえてやる。

戦略原潜に五大都市に核攻撃の命令が出た。海中からのミサイル発射は誰にも阻止

できないはずであった。

ところがミサイルは発射できなかった。頭をひねる艦長は操舵のコントロールができない

という乗組員の悲鳴のような声を聞いた。こうなればもう鉄の棺桶である。

原潜はやがて深い海の底で潰れた。

日本に向けた全ての原潜が消息を絶ったと聞きスッシュは青くなった。

ありえないことだ。途端に自信がぐらついた首相に国防長官が

「 まだ報復の手段はあります。我々にはステルス爆撃機、ICBMそれに衛星ミサイルが

あります」

「 そうか、よろしく頼むよ」 スッシュは遊びに疲れた子供の状態だ。

レーダーに捉えられないからステルスだが完全なものでは無い。

エイのような爆撃機の編隊は突然方向を転じた。ワシントン上空に向かっているという。

返事をしない爆撃機に対し仕方なく撃墜命令が出された。

急きょ日本に目標変更されたICBMは発射された・・・と思いきやサイロの中で爆発した。

最後の手段として取っておいた衛星ミサイルは軌道をアメリカ上空でピタリと停止し

動かない。ミサイルを下にむけている。

「 君たちの玩具は通用しないよ」 と大統領の耳もとで囁いた者がいる。

「 ギャッ! 誰だ」 スッシュは頭を抱え震えている。

「 このゲームは君たちの負けだ。国民も全てを知ることになる」

「 君たちはソドムのようなものだ。資本主義はよしとして、他国の犠牲の上に胡坐をかいて

いる。それに人種差別を解消しょうとしていない。金持ちが優遇され、
金を動かすだけで

繁栄を支えようとしている。

他国からの借金でようよう社会を維持できている事を忘れている」 

何があったか国民はすべてを知った。、スッシュは弾劾され、副大統領も責任をとって辞任、

アメリカは建国以来の大騒動だ。

「 そんな事があったのか!」 首相は驚き呆れている。あの米国が一人相撲をして

コテンパにやられるとは!

「 争いは向うから仕掛けたのですから、アメリカにこちらからすり寄る必要はありませんよ。

もうポチじゃないのです」

「 なるほど、中国も朝鮮も最近おとなしいな」

「 だから靖国参拝もしたければ毎日行ったらいいのです」

「 ひとつだけ、言っときますが、今の日本の好況は一時的なものです。

アメリカと同じなのです。国の借金を返済すると共に貧しい国に利益を還元しなさい」

「 ヒェッ! バブルがはじけるって」

「 いつまでも好況が続くと思っていたのですか」

「 バブルがはじけると国民に警告しなさい」

「 赤坂で湯水のように金をばら撒いている人間はこちらで洗脳します」

政治家を減らし、役人を減らし、退職金は上限を設けるのです。

相続税は所得に応じ大幅に上げなさい。どのように隠そうとしても無駄です。

その様な人間からは徹底的に絞り取ります。

もちろん天下り防止を政府がやらないならこちらでやります。

「 そんなあ、君たちとの約束はどうなるんだ」

「 どんな約束ですか?貴方の内閣は私共が守りますよ」

「 どうやって?調子ががいいから今は皆文句を云い出さないんだ。利害が絡めば

絶対造反してくる」

「 あなたの政敵は抑えこみます」

「 次の衆議院選挙が心配だなー」

「 それは選挙の時のお楽しみです」



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第15章 ロボット研修生
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