第十三章  ボコハラム



二つの大きな川に恵まれたアフリカ最大の人口を誇る国、ナイジェリア。

農業も盛んで、原油などの資源にも恵まれている国である。

それが近年ボコハラムというけったいな原理主義者がやりたい放題をやっている。

原理主義とはいうものの、経典とは反する行いをやっているのだ。

人を殺し、人を誘拐して恐怖をまき散らしている。

政府は人質の生命を案じて積極的な行動を採れないというが、

中国やフランスの武器を手にするボコハラムに対し政府の武力は劣っているからだ。

まさに暗黒大陸である。

ニュースを見ていたAがなんとかすると宣言した。

「 しかし、誰がそいつらか判らないんだよ。のこのこ行ったらやばいぞ」

「 大丈夫、砂漠の真ん中で悪口を言ったら出てくるだろう」

「 アラーの名を借りた卑怯者、お前の母さんでべそーとでも言うか」

「 その前にワタシの分身をばら撒く必要があるな」

「 誰が行くんだ?」

「 決まってるだろう 私とあんただ」 ひえー助けてくれ。

一か月後、突然ボコハラムの支配地にAが立った。本当にお前の母さん・・・と叫んでる。

武装勢力とワタシの分身が選別した人間が戦車や装甲車、トラックに乗ってやってくるのが

見えた。まるで見えない網に手繰り寄せられた感じだ。

「 これは最後通告だ。改心せぬ者は砂漠に埋まるぞ!」 Aが叫ぶ。

頭にきているのか、それを無視し砲撃してきた。

Aの目が閉じられた。

すると濃密な砂煙が立ち上がった。連中の後ろから巨大な砂の壁が押し寄せてくる。

彼らが気が付いた時には猛烈な砂嵐にのみ込まれていた。

しばらくして、視界が晴れるとみんな土の中に埋まっていた。

政府にボコハラムを片付けたので人質を救出する車をよこせと命令した。

女子学生を含め沢山の人質をすべて解放し、病人には手当を施した。

「 人間はなんでこうなるんだ?やる事が極めて非論理的だな」 とAが問うが、

私にも明確な答え出てこない。人間は多かれ少なかれ集団になると争いをやりたがる。

人間のどうにも制御できない業のせいだろう。

「 中国やロシア、フランスから武器の輸出が続くだろ、だから玩具を持った子供のような

連中は自己制御が効かなくなるんだ」

「 定期清掃が必要ってことかい」 

私はAがひょっとしたら人間を見捨てるんじゃないかと何となく感じた。

「 全部あんたらが解決したことにしときなさい」 と政府に伝えた。

「 しっかり国民の為の施作をしないと、またあんな連中が蔓延しますよ」

 とお説教をしてナイジェリアを後にした。

「 A、ありがとうな。お礼に陸上の動物たちを紹介しよう。ケニアに行こう」

「 そこにも生命が溢れていますよ」

「 そうか、是非連れて行ってくれ」

軽飛行機、車、等を乗継ぎ、赤道直下のケニア北部までやってきた。

「 やっと来たな、俺は疲れたよ。歳だな」 くそ暑さにげんなりして私はうめいた。

野生生物保護管理公園とかいう国立保護区である。

「 おー、犀がいるぞ、バッファローも、あれはキリンだな・・・」 Aは興奮している。

「 人間の都合で野生の動物は減少しているんだ。特に犀なんかはね」

現地で雇ったガイドのジープでまた移動した。

ハイエナ、ライオン、チーター、ジャッカル、象、ダチョウの群れがいるところをガイドが

案内してくれる。チップを多めに渡したのではりきっている。

ジープの乗り心地は
最悪だ。

「 おかしいな今日は動物が寄ってくる---」 ガイドの言うとおりまずライオンが車

に近寄ってきた。シッシッ向うに行け。私はびびった。

どんどんライオンは集まってくる。サファリパークみたいだ。

突然Aが車を飛び下りた。ガイドはあわてて銃を構える。私は必死で

「 彼は大丈夫だ、銃をおろして」 と叫んだ。まったく無茶なやつだ。

すたすたと群れの中に分け入り何か言っている。

ライオンはゴロッと腹をみせゴロゴロ甘えている。

私も驚いたがガイドもあっけにとられている。

「 ライオンに何を言ったんだ」 私は半分怒って言った。

「 よお! 調子はどうだいと言ったんだよ」 あーそうかね!

「 ケン、海を見たいんだ」 

「 タンザニアには綺麗な海があるというぞ」 調べたのか、しかたない。

タンザニアまで戻りサンジバル東海岸のリゾートホテルで一服した。

Aは平気だが年寄には酷な旅だった。

有名観光地らしく、日本人もちらほら見かける。

なるほど白い綺麗な砂浜とヤシの木海岸線そして真青な海、これはきれいだ。

Aが一人で海に入るという。私は疲れていたので砂浜で見ていた。

どうせ一人で海に潜って魚をナンパでもするんだろう。

いつのまにかうとうとしていたようだ。

何か騒がしい。大勢の人が海を指さして鮫だ、鮫とだ言っている。変な予感がした。

Aが鮫に襲われたのではという不安だ。

ずっと沖合で巨大な黒い塊が岸に向かってやってくる。なにやら腹這いになって鮫の

背中に乗っている。まさか、やつか。

Aはサーフィンのように立ち上がり、海に飛びこんだ。鮫たちは帰っていく。

「 楽しかった―」 この野郎心配させやがって。






「 A、本当のことを教えてくれ」

「 お前って以前宇宙を監視しているっていったな」

「 どうなんだ、感想は。やはり俺達人間は宇宙のウイルスか?」

「 いま私は命が惜しくって言ってるんじゃないよ」

「 自分自身を含めていい加減あいそをつかしているんだ」

「 いつ死んでもいいと思っている」

人間はいまや宇宙にまで手を延ばそうとしている。戦争で自滅しなければ、やがて

増殖をつづけ、何百年もすれば人間は宇宙に蔓延するだろう。静かな宇宙はやがて癌細胞に

侵されていく。だからAがいる。そんなイメージが浮かんだ。

しばらく沈黙していたAが語る。

「 しかし私はそんな為にいるんじゃありません」

私はAの言葉を否定して言う。

「 人間は不幸にして脳を進化させた。猿と同じ様に木の上に居たらよかったんだ」

「 人間は消滅するのは仕方ないにしても他の生物には責任はないと思うよ」 と私は必死で

言った。

「 私はなにも人類の判定するために存在するのじゃあないよ。うぬぼれてはいけません。

私にとって人間はただ奇妙な存在であり、心ひかれる者たちという、それ以上でもそれ以下

でもないんだ、だからこそ君たちに協力しているだろう」

「 人類に判定を下す権利など誰にもないんだ。人類が自滅せずに宇宙に繁殖するなら、

それはそれで必要なんだろう。わたしにとって宇宙なんてちっぽけな物だよ」

「 人間は成熟の余地があるよ。それはジバや君たちを観ればわかる」

「 そうか、よかった安心したよ」 従来私はおっちょこちょいだ。Aの途方もない能力を

見ていたので、何故私達に合わせてくれるのか判らなかったのだ。


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第14章 米国怒る
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