それからどうするPart9

路上生活を送るには厳しい季節になっていたが、暑さ寒さを
超越する能力を身につけた彼にとってここは天国のような
ものだった。
「要するにQOLじゃな、クオリティオブライフちゅうてな、
今流行だぞ、知らないのか」
「俺たちにそんなハイカラな言葉は関係ねーよ」
「無知なやつだな。いやすまん、つまり一人一人の人間らしい
生活や人生が幸福を見出しているかどうかの度合じゃ」
「俺たちゃあ結構この生活に満足しているけどな」
「金持ちも、地位ある者も、これを満たしている者は少ないのだ」
「だが、やりようによっては君達も生活の質を向上できるんじゃ」
「騙されんぞ、俺たちをプアービジネスに勧誘するつもりか」
「なんと情けない。わしがそんな人間に見えるか」
「見よ、この澄んだ瞳を・・・」
「不満はないと言うが、感じなくなる事は恐ろしい事だぞ」
「いいか、よく聞くのだ。お前たちから一切金を取るつもりはない」
「わしはスポンサーになりたいのじゃ」
物好きな老人のお節介はつづく。

それからどうするPart10

ホームレスの一員となり一週間が経った。
一見自由そうに見えて、彼らなりに過去への蟠りやトラウマに
縛られているから、仲間外の者にはぶっきらぼうになるらしい。
しかし一緒に暮らしてみて案外いい奴が多い事がわかった。
公園のこのグループはかなり纏まって行動している。
たまに浮浪者狩りとかいって迫害を受けることがあるから
必然的にこうなったらしい。
「おっ!渡り鳥だ」 空を見上げてテツ(哲二)が云った。
今日もテツと一緒に廃品回収をしているのだ。
「ありゃ鳥じゃないぞ、ドローンだ、渡りドローン」
「今日はえらいさんが来日するんだろ。その監視さ」
「なるほど、不審者の監視か」
「嫌な世の中だな!でも俺たちは一般人に比べれば不審者だよな」
「公園で焚き火なんかすれば立派な不審者だよ」
「俺たちはお上に盾つく気は無いのにな」
「今はまだモニターを見ながらコントロールしてるんだろうな」
「あと4、5年すればAIを持ったドローンがお巡りの代りに
パトロールする時代が来るかもな」
「俺はお巡りは嫌いだ。あいつらは俺たちを人扱いしないんだ」
「秩序を守る立場の人間は往々にして偉くなった気になるからな」
「じゃあ俺はドローンのほうがいいや」
「機械は情け容赦ないぞ」
「まあいいか」

それからどうするPart11

「だょな、これでいーんだよな」
ホームレスの前で大きな事を云ってしまったが、それは
私の頭の中に住み着く存在がそうしろとささやいたからだ。
「よくやった!あれでいい」
「だが具体的にはどうすれば良いんだ?」
「取敢えず今の格好じゃまずいからすっきりした服を準備
するんだ」
「ふむふむ」
「そして風呂に入れ、整髪もさせるんだ」
「しかし今のままではどの店も入れてくれないぞ、
相当臭うから」
「高速バスの発着場にシャワー施設があるだろう」
「よく知っているな!あれはワシも使っていたんだ」
「スーパー銭湯も近くにあるな」 その存在は自慢そうに言った。
「奴らをその気にさせるにはどうすれば良いんだ?」
「高級レストランでうまいものを食わせるし、その後キャバクラ
に連れていくと云えばいい」
「悪賢いな、男はたいがいそれに弱い」
「前の世界でもホームレスはそうだったからな」
「前の世界って何だよ」
「うーん、ごにょごにょ」
私の悪戦苦闘で彼らは復活した。但し恰好だけだが。
よく見ると中々渋いいい男に変身している。
私は何故か嬉しかった。

それからどうするPart12

わあー高級店じゃないか。
うおー綺麗な姉ちゃんばかりだ・・・。
子供のようにはしゃぐ連中をみて私は良かったと思った。
人生楽しい事も無ければやってられないのだ。
「ホステスからコスメの会社にお勤め?」とか云われている。
「どうしてだ?いや環境改善関係だ」
成程、廃品回収はまさにその分野である。
「だって皆さん同じオーディコロンの香りがするから」
この野郎たちスパの備え付けのやつをジャブジャブ使ったな。
「ところでこれからどうするつもりだ」
「こいつらは気のいい連中だが何もできんぞ」と奴に聞いてみた。
「ふふっ、はたしてそうかな」 と彼は不気味に笑った。

それからどうするPart13

「それで今まで聞いてなかったが、結局のところわしを利用して
何をさせるつもりだ」
「しかも勝手にわしの頭を乗っ取りおって!」
「乗っ取ったわけではない。間借りしているだけだよ」
「ふーん、いや誤魔化されんぞ、それよりお主はいったい何者だ
エイリアンか?」
「私は別の世界ではAと呼ばれている」
「世界はパラレルワールド、つまり並行世界なんだ」
「あーん??」
「幾つもの同時進行の世界があるという事だ」
「そこが大体片付いたから、こちらにやって来た」
「そちらの都合で勝手来るな!」
「人間は全然進歩が無い。いや止っている」
「それで腹をたてたのか?」
「いや、余りに哀れだからチョコッと手助けするつもりだ」
「何もわしを利用する事はなかろう」
「あんたは暇そうだったからね。それに・・・」
「あんたが呆けかかっていたから都合がよかったんだよ」
「ぎゃふん」

それからどうするPart14

「なんじ日溜まりに集う者たちよ・・・」
「なんだ、何だ、 またお説教かよ!」
冬の公園ではホームレスの人たちがベンチに集まっている。
私はその前で教導しているのだ。
「お前たちの経歴はあらかたわかった」
「大体において同じようなパターンがあるな」
「何らかの理由で持家を奪われアパートへ、更に一家離散、
或いは一人エスケープ、それからもっぱらカプセルホテル利用、
ここで金がつき路上生活者となる・・こんな具合だな」
「俺たちは底辺を行き来する双六かい」
「俺たちをどうしたいんだ」
「あのねー、あのねー君達・・」
「爺さんは達川監督か!機嫌を取ろうたって無駄だぞ」
「ばか者、いや君達はこのままではどうにもならんぞ」
「やがて冬が来るし、都も取り締まるだろう」
「それに君達だってやがて歳をとる」
少しだが不安になった様だ、しめしめ。
「今のこの国は撫民の心に欠けておる!」と教導はつづく。
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さあこれからの展開は・・・

それからどうするPart15

「どんな人間でも生きる能力を身につけている」
「特に彼らのような弱い立場の人間はその能力が必然的に
強くなるのは当然だ」
「まあそうなるかな」
「私の言いたいのは他人が持っていないような能力の事だ」
「わしのような寒さや痛みに耐える能力の事か」
「しかしあれは修行によって得たものだぞ」
「違う!それは元々君が持っていたものだ。それを修行に
よって目覚めさせたのだ」
「それじゃあ、彼らにも修行をさせるのか?」
「その必要はない」
「そんなー・・わしは必死に修行したのだぞ」
「そう怒りなさんな。彼らが君といる事がとても大事なんだ」
「君のような者が傍にいる事で彼らの能力が目覚めるのだ」
「よくわからんが彼らにはどんな能力があるというんだ」
「あの中に君と特に仲の良い者がいるだろう」
「うむ、6人いるな。あの者たちならわしのいう事は聞くだろう」
「あの段ボール回収をしているテツはなGPS能力がある」
「それで元自衛官だったヘイタイはエネルギー発動能力」
「古雑誌、古新聞回収のマンガは地震誘発能力」
「元ホストのイケは他人の思考を洞察、誘導する能力」
「元教師のセンセイは防御能力だ」
「元ヤクザのゴエモンはハッカー能力」
「まあこんなところだが彼ら自身が気が付かない程のものだ」
「だから今は何もできやせんよ」
「ふーん、奴らがねー・・・」 私にはとても信じられなかった。

それからどうするPart16

「それに君は捜査されている」
「わしがか? ははあ、あの宗教団体から金を持ち出したからな」
「そのせいてはない」
「君の人を誘導する能力を国が欲しがっているのだ」
「この年寄りをね、物好きな連中だ」
「そうではない、君がもし政治家と組んだらどうなる」
「例えば外国の要人と会ったら・・・結果は分かるはずだ」
「想像はつくな。だからか」
「他国がそれを知ればどうなる?奪い合いか、面倒なら
消されるぞ」
「そういうことで出来るだけ早く移動する事が急務だ」
「急務たって、何処えだ。他の公園か」
「いまさら公園でもあるまい。ちゃんとした宿泊施設だ」
「ネットカフェか」
「貧乏くさい奴だな、他に思いつかないのか。ネットカフェも
ビジネスホテルも簡単に目をつけられる」
「だから私がよく知っている人に会いに行くのだ」
「宇宙人がよく知っている人…? 誰なんだ」
「アパートの大家、いやオーナーだ」
「前の世界で知っているんだ。多分同じ場所にいるはずだ」
「そこに行き契約してくるのだ」
「面倒だなあ」
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