第七章  謎の組織



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下町のアパートに戻り久しぶりに掃除をした。するとわたしがつぶやいた。

「 おい、だれかここに侵入した者がいる。あちこち触った形跡がある」

「 大家のバアさんじゃないか。合鍵を持ってるし」

「 PCを立ち上げてごらん」 私は不安になってPCに取りついた。

「 やっぱりだ。中を覗いた奴がいる。まあ見られてやばいものはここにはないが」

「 用心してよかったが、誰だろう」

「 通帳が無くなってないから泥棒じゃないな。何を知りたいか予想できるが」

「 そうするとここを引き払う必要があるな」

「 その前に探っている奴が何者か調べる必要があるね」

「 大家のバアさんに聞いてみようか。心当たりがあるかも」

「 バアさんの好きそうな菓子でも持ってくか」

「 まあわるいわね。こんな気遣いしてもらって、そういやあんたの事を訪ねて来た

人がいたけど会ったかい」

「 そうですか。誰だろうな、どんな人でしたか」

「 特徴のない人でね・・・ お上の人かねあれは・・・」

「 もういいよ大体わかったから」 とワタシが言った。

バアさんに一か月後にアパートを引き払う事を伝え、世話になった礼を言った。

駅前のレンタカーで軽四トラックを借り家具を別のマンションに運びいれた。

それからしばらくしてバアさんから携帯に以前会いにきた人物が来たと連絡があった。

急いでアバート近くにくると、それらしい人物がいた。

「 何か私に御用ですか」 男は少し動揺したようだが無表情を保っている。

「 山内さんですね。良かった、少しお話しできませんか。奥様、いや以前の・・奥様

からお伝えしたい事があって探していたんです」

「 それはそれは、どうです近くの茶店でお聞きしましょうか」 と誘った。

喫茶店で相手は興信所の者と身分を名乗った。奥様から渡して頂きたいと預かった

書類があるという。それを受け取るときわざと私は相手の手を握った。

「 なんだろうな・・・」

「 大体のことはお聞きしてますが円満に離婚されたそうで」

「 その際の財産分与に関しては問題ありません。実はその後のあなたの所得に

関して隠していた財産が無かったのかと思っていらっしゃるのです」

「 なるほど、しかしよく私の所得がわかりましたね。どうやって調べたんですか」

それを無視して興信所の職員を名乗る男は言った。

「 あなたの所得は急激に上がっていますね。それはどうやって・・・あうあう」

「 こいつにはワタシの意識を忍び込ませたから何を言ってもいいよ。

もうここらをうろつくこともない」 

「 ただの下っ端さ。大日本誠心会という右翼の下部組織の一員らしい。トップは

政界も牛耳る大山玄造というフィクサーだが。問題は何をどこまで嗅ぎつけて

何をしょうとしているかだ」

「 親分に挨拶して、そこから本部にたどりつけるはずだ」

「 急いでメンバーに連絡して住所を移らせよう」

私達はしばらく動かないで、様子を探っていた。さらに電話の盗聴、PCへの

不正アクセスにも気を配った。今のところ異常はない。

ある日以前会った興信所を名乗った人物から携帯に連絡が入った。

「 やあしばらくだね」 ワタシだった。

「 大よそのことはわかったよ。要するにあんたの能力をいただいて金を得たいらしい。

配下の暴力団に命じてあんたを拉致する計画だ」

「 だからアパートに戻って待機するんだ」

「 いやだよ怖い目にあうのは」

「 大丈夫、今回は初めからわたしが表面に出るから心配ない」

アパートに戻ってもヤクザが来るとわかっていては落ち着かない。

30分たたずにヤクザが三人やってきた。そしてドスのきいた声で言った。

「 山内さん、うちの頭がお会いしたいと申しておりますがお願いできませんか」 

「 そうですか、じゃあ行きましょう」 あっさり言ったので拍子抜けしたらしい。

煙草くさいベンツの後部座席にはさまれて座った時にはもうチンピラ達はワタシに

支配されていた。何とか組の組長の部屋に連れていかれ組長と対面した。

「 あんたかい、競馬でぼろい稼ぎをしているってのは。その手品のネタを教えてくれ」

「 いやだね」

「 耄碌してここがどういう所か分からんようだな。タツ、少し痛めつけてやれ」

「 わかりやした」 いきなり後ろにいた三人が殴り合いを始めた。

驚いた組長が止めに入ったが組長もぼこぼこに殴られている。

下の階から組員が騒動に気付いて止めに入るがその渦中に巻き込まれ壮絶な

バトルが続く。全員が息も絶え絶えになっても止まらない。

そのうち全員死んだように動かなくなった。私は組長を起こして声をかけた。

「 組長さん、そろそろ大山玄三の所に連れていって下さい」

「 な、なんで御前の事を知っているんだ。ただじゃすまんぞ」

「 いやならあんたら全員が死ぬまでさっきの続きをやるまでだ」

ヤクザを脅すことになるとは予想しなかったが、わりと気持ちがよく癖になりそうだ。

青い顔の組長に運転させて大山玄三邸までやってきた。

古めかしい門が開けられ車が玄関までたどり着くと、四、五人の書生風の男たちに

挟まれて日本間に案内された。十分ほど待たされて髭をはやした年寄が入ってきた。

じっとこちらを見る目はかなり鋭い。普通の人間なら恐れ入るところだろうが、

こちらには芝居じみて阿保くさくみえる。

人間には会った途端に感銘を受けるような、人を引付ける大きさを感じる者がいる。

だがこいつには金と権力と恐怖によって裏で世の中を動かしている傲慢さを感じる。

いい機会だから徹底的に痛めつけて洗脳してやるつもりだ。

「 山内さんというたかな・・・」 わたしが黙っていると、そばの男が怒鳴った。

「 御前がおっしゃっているんだ、返事せんか」

「 井村、お前は黙っておれ」 男は恐縮した態で後ろに下がった。下手な三文芝居だ。

「 若い者が失礼した。気を悪くせんでほしい」

「 あんたを呼んだのは他でもない、噂によるとあんたは不思議な力を持って

おられるようだ。それをここですこし披露してほしいんじゃ」

「 それはいいですが、どんな事をしたらいいんでしょう。例えばあなたの

進めておられる事の未来予知とかではどうでしょう」

「 しかし呼び出しておいてお茶も出ないようではね」

「 こいつ御前さまに対して何という事を・・・許せん」男は私の胸倉をつかんだ。

「 井村止めんか。すぐにお茶を持ってこい」

「 いや、再三失礼した。しかしあんたは度胸があるな。そんな人間をわしは好じゃ」

 好きか嫌いかは後でわかるよ、と心の中で呟きながら

「 御前のお手を触っていいですか」

「 いいとも」 と皺だらけの手をさしだした御前に私は言った。

「 御前はメタンハイドレードの採掘利権に関して自主党の榊原氏に一億の献金を

しておられますね。しかしそれは無駄金になります」

「 そ、それはどうゆう事だ」

「 榊原さんは今日にも入院されます。おそらく再起不能でしょう」

その意味はおわかりのはずです」

「 そんな馬鹿な。騙されんぞ・・・・あーうー・・・」

「 こいつは乗っ取った。いま脳の中をスキャンしている」

こうしてヤクザも大日本誠心会も恐怖を植え付けられ自壊した。

これまでやってきた脅しや暴力による行為がどのようなものか自ら体験したら

少しはまともになるだろう。小便を漏らす程の恐怖を体験するのは因果応報、

自業自得
といえよう。

それにより彼らの資金は根こそぎ彼ら自身によって世の中に還元されるだろう。

我々に関する記憶は完全に削除したのは言うまでもない。

金鉱に関してはまだ何も洩れて無いことが判りほっとした。しかし我々の活動から

別の組織が関心を持たないという保証はないから、これからも警戒が必要である。



--2--

アパートに帰る途中公園で一人男の子が歩いているのに目に入った。

具合が悪いのかフラフラしている。見過ごせないので声をかけてみた。

「 坊や、大丈夫か? どこか具合が悪いのかい」

彼はぼんやりと首を横に振ったが、すがる様な目をしている。

「 じゃあお腹が空いてるとか・・・」

「 おじさんもお腹が減ってるからマクドでも行くか?」 と聞くと目を輝かせた。

セットを注文して彼を観察する。少し痩せていて、服装は汚れている。

凄い勢いでぱくつき始めた彼に両親の事を聞くとうなだれてしまった。

「 ごめんごめん、おじさんが悪かった。ゆっくり食べなさい」 そして思案したあげく

結局彼をアパートに連れて帰った。時間をかけると段々事情が分かってきた。

2年前両親を事故で亡くしたが、身寄りが無く児童養護施設に引き取られたらしい。

彼の名前は伸夫といい、園長は優しいが執拗に虐めるガキがいて、耐え切れず園を

出たそうだ。持ち合わせの金も無く2、3日当てもなく街をうろついていたらしい。

翌日、彼に話しかけた。

「 あのな坊や、君とずっと一緒に暮らしたいんだがそうもいかない」

「 君の不安の原因は虐める奴がいるからだろう。それをおじさんがお仕置きして

やるから心配しなさんな。出来なきゃおじさんの孫になれよ」 と言うと、どうやら

納得してくれた。

施設の園長に会い、事情を説明した。園長から施設の説明を受けたが、

児童養護施設は全国で600施設ちかくあるらしい。

ここは委託を受けた私立の養護施設だそうだ。

近年災害、その他の事故、離婚、虐待等が急増し施設入所者は目いっぱいで運営は

困難を極めているらしい。

人員配置も年齢に応じて最低基準が設けられているが、とてもそれを確保できないと

園長は言う。それに伴いいじめも有ることを認め、伸夫にすまない事をしたと謝った。

彼が善人であることは一目でわかった。彼は全財産を施設運営に投じている。

私達がいまやろうとしていることを説明し、この施設にも金銭面で協力したいので、

よければ早速資金を振り込みたい旨を語った。

彼はなんの疑いもなく私達に感謝してくれた。

いじめっ子に会ってみたが、なるほど子供にしてはすさんだ心をしている。

いじめについて質してみる。

「 ぼくが悪いんじゃないしー、みんなだってやっているしー」 と白を切る。

どうやらこいつが扇動して全員でいじめていたらしい。このような性格になったのは

彼のせいではないが、このままでは彼は救われない。

彼にいじめを続けると舌が3枚になるという心理的恐怖を与えると、

以来隅っこで口を押えてブルブル震えている。

まあ根性が正されるまでそうやって反省すればいい。

それに不安そうだった伸夫には心理強化を施してもらった。

園長から入金があったとお礼の電話があった。

私は知らなかったが施設は18歳迄でそれ以上になると出ていく決まりがあるそうだ。

問題はそれ以後のサポートが出来ない事だという。

それについては、こうやって知り合えたのだから相談に乗ることになった。





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第8章 詐欺集団
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