第6章 金山買収

第五章   埋蔵金探査


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後日、我々はマンションの一室に集合した。

「 おらあまた行きたい」

「 田舎のお大尽かお前は」

「 しかしきれいな姉ちゃんばっかだったな」

「 もう姉ちゃんのことは忘れろ。いいかね、これからお宝探しの準備にかかる」

「 そこでじゃ、簡単な説明と役割分担をきめる」

「 温泉には行かないのか」

「 執念深いやつらだ。そこらのスーバー銭湯で我慢しろ」

「 日本の各地には昔から黄金伝説がいろいろある」

「 豊臣秀吉の黄金、徳川幕府の御用金、結城春朝の黄金、武田信玄の軍用金など

が有名じゃな。実際いまも掘り返している人たちがいる」

「 じゃが大方が創作じゃ。昔の人は作り話で楽しんだんじゃ」

「 そしてわしの狙いはこれじゃ」 教祖は古文書のコピーを広げた。

「 何んて書いてあるんだ。これじゃさっぱりだ」        

「 これは八王子の産千代神社で発見されたという古文書だ」

「 大久保長安の埋蔵金について書かれておる」

「 誰だ大久保長安って」 

「 で、どのくらいのお宝だ?」

「 すこしだまって聞かんか。そもそも朝鮮半島からの渡来人に秦氏の一族がおる」

「 武田信玄に仕えた大久保長安は秦氏の末裔じゃ」

「 長安は武田氏仕えたおり鉱山開発に異常な才能を発揮した」

「 武田氏の軍用金を甲州金というが、それは長安の力が大きかったからなのだ」

「 武田氏が滅んでから長安は家康に重用される」

「 佐渡、石見、伊豆などの金山奉行、勘定奉行、老中を歴任、徳川幕府初期の

屋台骨を経済面で支えたんじゃ」

「 ところが力をつけた長安は政策面でも口を差し込むようになったらしい」

「 進歩的な考えもつ長安と保守的な家康とは次第に対立するようになる」

「 いくつかの大名が取り潰されるなか、長安も己の先行きに不安を感じたのだろう。

密かに大量の金塊を隠しおいた。その在処を書いた文書がこれだ・・といわれている」

「 それはの、旧武田領国河内領湯之国金山、現在であれば山梨県南巨摩郡見延町

湯の奥ということになる。さらに、湯の国の一里塚から北へ三里、峠の頂上から

卯の月に日の落ちるところ・・・とある」

「 それでは、ここまで具体的に書かれた場所のお宝がなぜ発見されなかったのか。

それは後ほど説明するとして」

「 武田の甲州金は長安が率いる金山衆という金山発掘、精錬の職業集団に

よるものだが、長安は家康に仕えた後も金山衆を率いて佐渡、岩見、伊豆の

金鉱の発掘
にたずさわる」 

長安の死後、大久保一族は家康の手で滅ぶ。長安の予感は当ったのだ」

「 しかし再起のための埋蔵金は使われる事がなかった。わしはこの古文書が

ダミーと考えておる。つまり注意を湯の奥に向ける為に残されたものだと」

「 教祖、ならその古文書は偽物だろ。騙して骨董屋に売りつける気か」

「 ち、違うわい。わしはそのように見られたのか。不徳のいたりじゃ」

「 そこでヤマさん。あんたのアンタはこの偽物と思える古文書から何かつかめんか」


私はワタシに聞いた。そしてその答えに驚いた。「 その古文書の作成者と

隠した人が同じであるならあるいはできるかも」 だそうだ。ワタシも自分の能力を

試したいらしい。

「 では静かにねがいますか」一同は押し黙りしばらく時間が経過した。

「 わたしにとっていい経験でした。ワタシの能力も少し向上したようです。

どうやら同じ人のようです。彼の心理と実際の隠した場所が読み取れます。

大まかに云うとそこは伊豆です」 不思議に誰も疑うものはいなかった。

教祖は自分の読みが当たったと大はしゃぎだ。

「 その場所は土肥です。現地に行けばさらに詳しいことがわかるでしょう」


「 そうか土肥金山か」 教祖は下調べと車の調達を指示した。

地道な学習などを嫌がる元ホームレス達も、こんなことは大好きなのだ。

ジムニーとパジェロミニに食料、飲料水、キャンブ道具、無線機、軽量発電機、

ロープ カラビナ、縄梯子、特大バール、予備燃料容器など思いつく物を積み

準備は完了した。

そして私と教祖、そしてコウさんが先発することになった。

「 お前たちわしが居ないといってはめを外すなよ。下手な女に捕まって、何でもべら

べら喋っちまうんじゃないぞ」

「 教祖こそ伊豆でハニートラップに引っ掛かるんじゃないぞ」 とシンさんが言う。

「 馬鹿、シン、それはお前の事だ」

「 心配ないって。後のことは俺らに任せて、しっかりお宝を見つけてこい」



--2--

東名高速沼津ICから伊豆縦貫道へ。休みを取りながらやっと修善寺までたどりついた。

さらに国道一三六号線を経て土肥温泉に到着した。

「 いい所だな、東京と比べて空気がうまい気がする」

「 温泉が湧いて、近くで釣りもできるし、こんなところに住んでみたいな」

「 ここらはの、江戸時代に金山発掘で賑わったところじゃ」

こんなやりとりをしながら海岸近くのホテルにチェックインした。

夕食は豪華だった。駿河湾の新鮮な魚に伊豆ならではの山の幸を堪能した。

露天風呂に浸かりながらコウさんがしみじみという。

「 留守番組に悪いなあ、こんないい思いをして」

「 ついこの間まで外で暮らしてたんだからな。あれも気楽な生活だったが、

こうして温泉に浸かれる身分になるとは夢にも思わなかった」

「 そうだな。まあ明日から奴らの分までせいぜい頑張ろうか」

その晩は久しぶりの運転で疲れたのかすぐに寝ついてしまった。

翌朝、早起きした教祖が聞いた。

「 ヤマちゃんここからどう行くのがいいかあんたのワタシに聞いてくれんか」

「 大まかにいって目的地はここから北東にあたるよ」 ワタシはあっさり言った。

「 そうか、このマップを見るとここから直接北東に進む道はないな」

「 とりあえず136号線で東へ戻り、土肥山川から北上してみるか」

GSで燃料を補給し、2台の車は出発した。土肥山川から北上し、道は少しずつ山深くなってくる。

曲がりくねった道を進み127号線に入りさらに北上した。

私のワタシは黙ったままだ。127号線と18号線が合流する付近まできた時、

トランシーバーから教祖の不安気な声が聞こえた。

「 ヤマちゃん、この方向でいいのか聞いてもらえんか」

「 分かりました聞いてみます。おい聞いてるか」

「 ハイ、聞いてるよ。すべて順調だ。近づいている。ここから三差路になるから

真ん中の細い道を進むんだ」 ワタシの答えに私は安心した。

ホテルを出馬してここまで一時間弱しか経っていなかった。私は教祖とコウさんに

それを伝え細い道に侵入した。

800m程進んで道が途絶えた時ワタシの声が聞こえた。

「 さあ、ここらから歩くんだ」 私達は目立たぬ所を見つけ車を隠した。

「 地図を見て。ここから西にあたる所に金冠山とあるだろう」

「 その山の東側は沢になっているからそこを進むんだ。持っていくものは少ない

ほうがいい」 ワタシの指示に従い私達は最小限の装備を担ぎ山に分け入った。

すぐに沢に出たが流れる水は少なく岩を除けながら1キロほど歩いた。 

「 ここから北西に向けて登るぞ」

鉈で雑木や藪がからまる林を切り分けながらの進行はなかなかはかどらない。

倒れた木と灌木がわずかな空間をつくっている場所をみつけ私たちはへたり込んだ。

「 想像以上にきついな」 心臓がバクバクいっている。

「 教祖、大丈夫か口数が少ないが」 教祖は黙ってあえいでいる。

「 お宝が待っていなきゃ、ここまでこれなかったな」 とコウさんが云う。

「 怠け者の俺にこんな根性があったとは驚きだ。いい経験をしているな俺たち。

これなら外れてもいい様な気がしてきた」

「 何をいうか、ここまで来て諦められるか」

「 そうだ教祖、もう一頑張りだ。しかしお宝が見つかってポックリ逝くなよ」

「 お前は元気づけとるのか、殺したいのか」

休憩をとって体力が回復したころ、ワタシがぼそっと言った。

「 この下には岩がある。だから灌木が多いんだ。どうやらこの下辺りだが、進入路が

どこかにあるはずだ。それを探そう」

装備を降ろし手分けして入口を探したが簡単にはみっからなかった。

探す範囲を広げて小一時間周辺を探ったころ、ワタシがこれだと思うと言った。

それは斜面に大きな岩が2つ埋まったところだった。

土を取り除いていくと小さな隙間ができた。細長い木の枝を差し込むと、すっと

抵抗が無くなった。

「 これ以上隙間を大きくするには岩をどけにゃならんな。一度もどるか」

教祖が悔しそうに言った。

「 その前にこの隙間からわたしのプローブを侵入させて探ってみよう」

わたしの言葉を伝えると教祖は期待に満ちた声で 〈ありがとう〉 を繰り返した。

いくら時間が経っただろう。じっと待っていた私の耳に

「 これはすごい」 というワタシの声が伝わった。

「 どうした大丈夫か無理しちゃ駄目だぞ」 とワタシに言った。

「 君に見せてやろう。窓を開くぞ」 というと私の頭の中にはぼんやりとした

薄暗い闇が浮かんだ。

「 もう少し感度をあげるよ。これでどうだ」 ワタシの言葉どおり窓は少し明るくなった。

目をこらすと大きな空洞のようだ。

「 どこにもお宝のような物は見当たらないな」

「 そうさ小判も金の延べ棒も無いよ。長安のお宝は別の形であったんだ」

「 戻って詳しく話してくれ」 と私は叫んだ。

「 ワタシが君の口を借りて皆に直接話すよ」

「 ヤマちゃんの相棒は覗きもできるのか。いいな」 コウさんが言った。

「 わたしの事を変質者の様に言ったな。まあいいよ、探る能力も向上したようだ」

「 この岩が進入路を塞いでいるのは間違いなかったよ。次にここに来るときには

動かす道具がいる。バールとロープ、縄ばしご、懐中電灯くらいかな」

「 そんなことより小判や金の延べ棒がないって! やはり空振りか」

がっくりきたように教祖が落胆のため息をついた。

「 この中を進むと洞窟がある。残念ながら小判はなかった。つまり長安はここに金を

運び込んだんじゃないんだ。この下にある洞窟全体が金で出来ているんだ。

この場所を隠したんだ」

「 何だって! それならそうと早く言ってくれよ」

「 ご不満かね」

「 とんでもない。ありがたい、大満足だよ、帰ったら油揚げを供えるよ」

「 先の場所に戻ろう」 

テントを張ったら、すでに四時を過ぎて山の中は薄暗くなっている。

ラジュウスでコーヒーをいれ、パンで腹を満たし、やっと人心地をついた。

「 よくやったな俺達は。今までの人生で一番体力を酷使させた感じがする」

「 そう、今日はしんどい目にあったが、何故か心はスカッとしているよ」

「 金の為とはいえ死に物狂いだったな。頭脳労働者にはハードすぎるよ」

「 誰がじゃ」

薄明るい夜空には輝く星空が一面に広がっていた。

翌朝はよく晴れていた。教祖を残し、私とコウさんは膝をがくがくさせながら

斜面を下り車まで戻った。そして持てるだけの装具を担いで山を這い上がった。

「 欲が背中を押してくれるが、これは年寄にはきついよ」

「 まったくだ。なんとか道を付けんとお宝を使う前に死んじゃうよ」

「 残留組をたきつけて道をつくらせよう」

「 金塊を見せれば怠け者も目の色が変わるさ」

金鉱の入口まで戻った時は二人ともぶっ倒れそうに疲れていた。

「 やあ、ご苦労さん」 教祖が軽い口調で言った。

「 何がご苦労さんだ。そう思うんだったら水でも持ってこい」

「 そうだ、水を飲ませてくれ」

「 水か、ほれそこにあるじゃろう」

「 やっぱりな、ヤマちゃん、教祖はわしらを使い捨てにする気だ」

「 なるほど、元経営者の腐った根性が見え見えだな」

「 じゃあ二人だけで冷えたビールでも飲もうか。汗をめちゃ掻いたからうまいぞー」と

必死で持ち込んだクーラーボックスを開けた。

「 待ってくれ、どうした、急に意地悪して。わしにも一本くれ・・・ちょうだい」

労働の後のビールはうまかった。

「 さあ、教祖をおちょくったし最後の頑張りだ」

岩の隙間がわずかに覗いている部分にバールを差し込み力をこめた。

微動だにしなかった岩が少しずつ動きだした。開いた隙間に丸太をこじ入れ三人が

し  がみつくようにぶら下がると、待っていたように岩はうごいた。

岩が動かぬようにロックをかまし内部の酸素濃度を測定したが異常無しだ。

ライト付ヘルメットをかぶりコウさんと私は中に侵入した。

慎重に足場を探りながら前進する。狭かった穴はだんだんと大きくなってゆく。

「 どこまで続くんだこの穴は? すこし怖いな」

「 大丈夫、30mほど先からはフラットになる。その先は急に落ち込むぞ」

「 次に来るときはアルミの梯子があると楽に降りれると思う」 とワタシが言う。

ワタシの言葉どおり平坦な道はしばらくすると急に前方に落ち込んでゆく。

「 止まって! 穴があるから気をつけて」

「 おっと、ほんとだ。でかい穴だなこれは」 腰を引き気味にしながら穴を覗きこむ。

「 おいヤマちゃんあそこ光ってないか」 コウさんが指さす先がぼうっと光っている。

「 たしかに。あれが金か、降りるぞ」 いそいでロープを岩に結び、滑り下りた。




下りて目を奪われたのは照明に照らされた岩肌だった。地面も、左右の岩も、

そして天井も金色に輝いて、恐ろしい程の量感を感じさせる。

「 やった、やったぞ。これが長安の隠し金か。教祖がこれを見たら腰を抜かすぞ」

「 教祖にここを見せるのは骨だ。手頃の金塊を持って上がろう」

出っ張った岩につるはしを入れると、ぐにゃりと先端が中にめり込んだ。

これはかなり純度が高そうだ。数か所でサンプルを採取して袋に詰めた。

「 ここで怪我をしたら大変だ」

「 教祖を早く喜ばしたいが、慎重にもどろう」 長い登り道を必死になって入口まで

引き返した。教祖は穴の淵に身を乗り出して待っていた。

「 おう、どうだった。心配したぞ。なかなか連絡が無かったから」

「 わしらを心配したのか、金が気がかりだったのかね」

「 それは金に決まってる・・・あわわ」 正直な爺様だ。

「 ジャーン! もってけ泥棒」 日の光のなかに金塊がきらめいた。

教祖はそれにしがみついた。喜びと達成感そして心地よい疲労が三人を包んだ。



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