第十四章  エピローグ



ワタシの意識は地球上に少しずつ伝播して、人間の自浄作用に干渉しているらしい。

それが正しいやり方かどうかは判らない。

ただ国や民族同士の争いが減り、少し静かになったような感じがする。

例えばイスラエルとパレスチナは今では民族の壁を越えひとつの国になろうとしている。

大国からの武器輸出は減り、未開発国の紛争は止みつつある。

ジバ達の援助活動もそれに伴い多少やり易くなっているようだ。

このまま援助が続けば、それは人口増加につながると警告する人もいる。

だがそんな事を意に介さずジバは世界に増えつづけている。

優れた経験と知恵でいずれこの世界はジバが中心になって動かしていくだろう。

現役世代の誤った風潮は誰もが持つ人間の業に端を発するものだから仕方がない。

だから如何様にも業を積むがいい。

しかし年老いた時にその業を纏って満足して死を迎えられるだろうか。

手足を動かせなくなり、痴呆が進めばほとんどの人間は邪魔物扱いされるのだ。

実際介護の現場では老化の症状が進めば抑制帯やミントなどを使用され

ベッドに縛られ、更には向精神薬を飲まされ動けなくされる。

みんな知っていて現実に向き合おうとしない。

救いがないから天国だの極楽だのを人間は創造した。戦争を無くそうとか言う一方で、

悪口、いじめ、差別そして不毛の争いを止めることが出来ないのが人間だ。

その中でかろうじて崩壊を避ける自制が偽物の平和を保っているにすぎない。

だからジバが生まれたのは必然性があったと思っている。

今になって考えると私のなかにワタシが生まれたのは本当に偶然だったのであろうか。

何か人間の上位にいる存在の企みだったのかもしれないとふと思った。

現在私はあの下町のアパートに身を置き、一人で暮らしている。

大家のバアさんとの付き合いも復活した。

私の役目は終わったと感じ、ジバたちに今後を委ねたのだ。

その先はどのような展開が待っているかを私は知らない。

あの元ホームレスのメンバーは最近どうしているだろう。

教祖は埋蔵金の調査を再開した。

他のメンバーは生活には窮してないのに何故か廃品回収でお宝を探しているという

噂を聞いた。

私は今日もあの河川敷を歩いている。風が通り抜け木々や草の香りを運んでくる。

川面は雲間からの弱い光を微妙に反射し、河原は白く乾いた石と湿り気をおびて

緑褐色の石が中洲まで埋めている。

歩き続け懐かしい場所まで来たが、そこにはもうホームレスの小屋は取り除かれ何も

無かったように雑草が茂っている。

ふとあの愉快な仲間たちの姿が浮かんですぐに消えた。

また夕立が来るのか、かすかに遠雷の音が聞こえる。

悪い予感がした。

「 もういいよ、やめてくれ」 と私はつぶやいた。





-完-


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