第十三章  政権との交渉と外圧



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どの国も国益を優先した外交を行っている。内外の物象を監視するのに現在では

諜報員以外にソフトによるチェックを怠っていない。物事の変化の割合が仮定の平均値を

外れれば自動的に生じた原因に注目し調査を行う。

我々が金を放出することで、金価格に影響し、相場が下降している事実は隠せない。

当然、かって黄金の国ジパングと呼ばれた国のどこかで莫大な量の金を産出している

事に気付くはずだ。

そこから怪しげな集団が海外援助とかいう名目で、かっての大日本帝国のように

海外覇権に蠢動している・・・とかなんとか圧力をかけ、おこぼれに与かろうとするに

違いない。

その為の準備をワタシは怠っていない。だれがどのような形でかかわってくるか先を

読めるからだ。各国の諜報機関で警戒すべき国はやはり米国、ロシア、中國になる。

それに国際的な金市場をコントロールするシンジケートだ。

監視衛星の情報からすぐに伊豆あたりが怪しいという判断をするだろう。

わたしはすでに政府と交渉を始めていた。先に接触していた内閣調査局から首相に密かに

面談を求めた。つまり心理的同調者にするためだ。

「 貴方たちは伊豆のリゾート施設を無料で提供しているそうですね」 と首相が

口を開いた。ふーむ、そこから攻めてくるかね。

「 そのことで何か問題でも?」

「 海外援助ではかなり派手に金を使ってますね」

「 物事を斜めから観るとそうなりますかね。まさか援助はいかんとおっしゃるんですか。

日本の株も上がっているでしょう」

「 その資金はどこから・・・いや大体つかんでいますが」

「 つまり使いようがお気に召さないのでしょうか」

「 これからは政府の許可を受けてほしいですな」

「 そのことに関連してご提案があります」

「 貴方の政治力には常々感服しております。しかし我が国を取り巻く情勢はかなり

危ういものとなっております」

「 そのひとつは経済情勢です。あなたの改革で幾分持ち直したものの、その伸びは

停滞しています。もうひとつはその原因のひとつであるエネルギー危機です」

「 風力、太陽光等の発電も設備投資に比べ発電能力がいまひとつです。

さらに売電により電力会社を圧迫し電気料金が高騰しています。これが産業成長の

重石になっています」

「 わたしたちはこの問題を比較的短期間に解決してさしあげる用意があります」

「 さらに貴方の政策課題としている集団的自衛権もいまのところあの似非教団を

バックにもつ政党とマスコミにより実現していませんが、その解決の用意があります」

「 対外政策では特亜諸国の傍若無人ぶりを懲らしめる有効な手段も持ち合わせて

おります。ただしひとつだけ交換条件があります」

「 それは何かね」

「 私達は老人の救済と海外援助を行っておりますが、それにはこれまで以上に資金

が必要なのです。ですから税金などに取り上げられるのはまっぴらなのです」

「 金の売買に関しては税務局は介入してきません。つまり無税にしてくれています」

「 ですから法務局あたりから問題提起された場合には圧力をかけてほしいのです」

「 それは私の力では困難だよ」と首相はつぶやく」 

「 税務局が何故黙っているかわかりますか」 私は暗に洗脳を臭わせた。

「 金の出所について外国からの問い合わせや圧力があっても無視して下さい」

「 悪魔との取引か」 首相はため息をついた。

「 天使とは言いませんが必要とあれば悪魔にもなるでしょう」

「 貴方の政治理念とは会いいれないかもしれませんが、論理的、合理性の観点から

みれば、この国にとって悪い話ではないと思います」

「 OKするとして何をどのように解決してくれるんだね」

「 もう少し具体的に言うと、それは原子力ではありません。エネルギーを発生させる

原料は半無限にあります。つまり水です。海水でもいい」

「 そうです、私共には常温で水を分解するテクノロジーがあります」

「 まさか! それを信じろというのかね」

「 水の分子はご存じのように酸素と水素原子が水素結合と共有結合した構造ですが

必ずしも安定しているわけではありません。現在の科学はこの事に関して解明出来て

いません。超顕微鏡的にみればこの世界で不変のの物質はありません。

ただ私達には見えないだけです。そこでその物質の固有の結合を緩め、元の原子に戻る

時間を速めてやればいいのです。その触媒的な役割をする物質を提供できます。

ただその物質自体が非常に不安定な為、特殊な容器の中で安定化させています。

その物質を分析しようとしても外側からの精査は無理で、容器を傷つければ分解して

しまいます。つまり真似できない技術なのです」

「 貴方が信じられないのは当然です。ですからしかるべき科学者と貴方の目の前で

証明しましょう」

「 それで確認できたら技術者に実験プラントを造らせて試験させればいい」

「 ふーむ・・・」

「 失敗を恐れては何も進展しません」

「 貴方の政権を守る立場からではなく、国民の幸せという観点からこの事を考えてみて

ください。他の問題も同様です」

「 金鉱はどうするのかね」

「 考え方をかえれば、あの金鉱は日本のものです。どこにもいきませんよ」

「 ただし無断で侵入する者には手ひどいダメージを与えるようにしています」

「 それは侵入者に限らず、画策した国にも深刻な罰をあたえるでしょう」

「 政府に圧力をかけている国やシンジケートがあれば私達に伝えてください。

二度と口出ししないように打撃を与えます」

後日、猜疑心に満ちた科学者たちに見られながら即座に水素と酸素を発生させてみせた。

後は国の責任で何とでもすればいいのだ。

自分達の出世とか、権威とかを守る為に汲々としている科学者が科学の進展の芽を

摘み取っているのだ。

資源エネルギー庁と首相は自分の手柄のように高らかに国民に演説した。

「 みなさん、もう石油の高騰を心配する必要はありません。日本の技術の成果を

ここに発表いたします」

こうして政府との協力体制は秘密裏に確立していった。

首相の支持率はかってない程上昇し、調子に乗って最近では消費税を下げる等と

大口をたたいている。

日本の各所に水の分解プラントが稼働し。市場に安価で供給が始まった。



--2--

危機感を持った中東、ロシア、米国などの産油国は日本政府の行動はエネルギー資源市場

の均衡に混乱をきたすと、訳のわからない批判を続けている。

しかし自分たちがこれまで石油市場を操作して消費国から暴利を得ている事には

口をぬぐって素知らぬふりだ。

国と国の軋轢は従来の問題を引き摺っている。隣の恨国は日本の急激な経済の

上昇が気にくわないらしく、靖国問題やありもしない慰安婦問題を取り上げ盛んに

お詫びと補償を強要している。

弱気な日本なら何を言っても大丈夫と考えているのか。

何度謝ってもしつこく批判する国民性は日本政府にとって頭が痛い。

しかし突然国連事務総長のハン・ギブンが何を思ったか、日本を特定し批判を始めた。

その時全世界のメディアは期待どおりのシーンを目撃したのだ。いきなり演壇で事務総長が

スッポンポンになって、我大恨民国こそ常任理事国になるべきだと滔滔と発言している。

職員の静止を振り払い大暴れだ。ニュースは世界中に流れ、恨国は批判の矢面に立つて

しまった。 

恨国寄りのロビーは一斉に手を引き始めたが、恨国政府はヒステリックに陰謀だと叫んで

いる。例によって泣き叫ぶ国民もいる。

「 やったな! あんたの仕業だな。でも汚い手を使う国は相応の恥をかくべきだ」

「 ワタシは君の意識を反映した行動をとるからね。ところで、いよいよ施設周辺に不穏な

動きがあるんだ」

「 どこの組織だ」

「 まだ分からないが今度は完全武装だそうだ」

「 面白くなってきたね。どうして分かったんだ?」

「 使っているトランシーバーの電波を傍受したからね」

「 分散しているこいつらの配置もつかんでいる」

「 すごいな、いつこんなものを・・・作戦指令室じゃないか」 

「 シンさんが喜んでるよ。元ホームレス軍団はかれに鍛えられているからな」

「 夜中にやってくるみたいだ。犬たちが怪我をしないように施設に入れておこう」 

「 このモニターの赤い点があるだろう。それがやつらの位置だ」

「 地面に埋設しているセンサーとガスとこちらは超音波ガン」

「 お前楽しんでないか?」

「 わくわくしてるのはワタシだけじゃないよ」 なるほどジバもモニターに食い入っている。

「 彼らは二陣に分かれている。一陣は施設確保、二陣は後部で援護するらしい」

「 ランチャーか何かで攻撃されたら被害が出るおそれがあるから、動きだしたらすぐに

後ろからトーチカによる攻撃を行う」

「 隊長、ホームレス軍団全員配備に就きました」 コウさんが興奮した顔で云った。

「 キャー、おじさまたちすてきー」 シズオが身をくねらせた。

夜が深け、やつらが動きはじめた。

シン隊長の指示でトーチカがせり上がりゴム弾が高速で発射された。

更に幻影弾が発射されるとキャタピラを響かせた戦車が包囲するシーンがリアルに浮かび

上がった。慌てて発射したロケットランチャーの反撃は素通りしている。

やがて全員がぶっ倒れ攻撃は止んだ。武装解除されたコマンドを一室に閉じ込め

鎮静ガスを放出した。

この様子をモニターで見ていた年寄は興奮している。

「 日露の戦争大勝利・・・」と歌いだす者もいる。

捕らえたコマンドは中国人だった。第二の大国になっただけでは満足してないらしい。

「 ワンさん、何でも欲しがるんだな君の国は」

「 ワタシ、ワンちがう。ハナシセンセンチガウ、戦車で武装してる…それ聞いてない。

それに私達ワルクナイ。リゾート施設見学にきただけ」

「 夜間に鉄砲もってか? それにほふく前進して? じゃあその訳をじっくり調べさせて

もらおう」

都合の悪い記憶は消去し、ここはただのリゾート施設で今までの情報が誤りであるという

意識を刷り込ませ全員解放した。もちろん彼らはワタシの意識を脳内の奥にまとっている。

「 これで済めばいいけどね」

「 これが始まりさ」 ワタシは嬉しそうに言った。

「 あの兵器はどうやって手に入れたんだい」

「 シンさんは兵器マニアでね。彼の発想を参考にわたしが設計してスイスの兵器メーカー

に製造を依頼していたんだ」

「 恐れ入ったよ。前々からこの事態を予想していたんだな」 

失敗したコマンドから軍司令部へ、次に主席へとわたしの意識は侵入したようだ」

襲撃に失敗しご立腹の主席は何を思ったのか声明を発表した。

国内の企業と国民の税意識を向上させる為に税の徴収を強化すると発言している。

この声明に怒った人民のデモがはじまり政府は大慌てだ。

仕方なく意識を逸らす目的で金を掴ませた漁民を尖閣に大挙送り込み大騒ぎをやりだした。

「 こちらで処理しますから、抗議は控えて下さい」 とわたしは首相に伝えた。

こんな事もあるかと島にあらかじめ設置しておいた幻影弾を発射し噴火の

イメージを投影させた。海中に準備しておいた赤や褐色の染料を流し気泡も噴出させる。

地下に埋めておいた火薬を爆発させると、その振動に火山の噴火と勘違いして先を争って

漁民は逃げ出した。

「 不法に尖閣を自国と吹聴する帝国主義日本を我が国は許さない。すでにわが人民に

よる献身的など努力により尖閣を占領した・・・」 こんな大見得をきっていた軍の目論見は

瓦解した。

激怒した主席は軍幹部を更迭したが、今度は主席の発言に不満をもつ地方行政区で

反乱が勃発し、治まる気配はない。

「 こんなんでいいでしょうか」 と首相に私が言った。

「 恐ろしい人だな君は」 しかし嬉しそうだ。

「 お礼は無しですか。でも当分これであの国はチャチをいれないでしょう」

「 どこまでが君の力の影響なんだ?」

「 知らぬが花という言葉がありますね」



--3--

海外援助の様子をゼンさんが報告してきた。

フィリピンの援助は継続しているが、今は援助国の範囲を少しずつ広げている。

カンボジアでは未だに残っている地雷処理をJMAS等が行っているが、資金面で援助を

を行うと共に負傷して不自由な暮らしをしている人に対し治療をおこなっている。

その主な・目的は地雷による欠損部の再生と心理的治療だ。

ゼンさんの能力はそこまで進歩したらしい。

何台もの医療車が国中を廻っている。心の強化と完全な身体に再生した人達が続々

と社会復帰している。

ベトナムでも枯葉剤により異常な生まれ方をした子供達と戦争で負傷した人々の

再生治療を実施している。生まれ変わった人達は神々しいほどに輝いている。

あの三兄妹はこれらのプロジェクトの中心的役割を果している。

特にあのふーてん娘の変わり様はすごい。治療中の患者を心をこめて励まし心理的な

不安を取り除いている。ゼンさんはその様子を見て微笑んでいる

施設で久しぶりに教祖の独演がはじまった。最近は影が薄れているが、その精神性の

高さがホームレスをまとめ、引上げてきたのだ。いまのプロジエクトの発案者は彼であり、

私たちはその俗物性を含め今も尊敬している。

「 あー諸君、君たちはまことによくやっておる」

「 なんだ、上から目線だな」

「 思うに、ヤマさんのワタシの力もあって様々なかたちで救済が行われている」

「 その過程で人々の精神性も救われている事実がある」

「 わしもそう永くは生きられまい」

「 なかなか」

「 わしの考えも変わった」

「 ふむふむ」

「 かって、わしは人間は死ぬまで生きればそれでいいと考えておった」

「 それは、それは」

「 欲の廃棄が心の自由を得ると言いながら埋蔵金の発掘にも心を奪われていた」

「 ほーほー」      」

「 黙って聞かんか。だが、ひとつだけわしの中で欲が湧いたんじゃ」

「 若者の心の救済だ。彼らは昔と比べれば物質的には恵まれているし、学業や職業を

含め、やりたいことや進むべき道を選択できるのに何故自らを高めるの方向に向かわない

のか不思議じゃった」

「 欲望は人間の業じゃ。それは自らの生活と躍進力に欠かせない。しかしこのままでは

良くない。みなさい、かれらは周りから取り残されるのを恐れている」

「 ラインとかツィッターなんかに捕らわれて、しかも傷ついても抜け出せない。

あんな阿保らしいものすぐやめたわよ。横並びとか他人を気にしすぎよ」 

とシズオが吐き捨てるように云った。

「 お前はたしかに独自性があるな」 コウさんが冷やかす。

「 ほっといてよ。おじさんより若い男のほうが気になるのよ」

「 まあまあ」

「 だから多くの若者の業、いや精神性を正しい方向に少し変えてやりたいのだ」

「 それは競うのではなく、生きる為でもなく、人に役立つこと、そして自らの独自性を

伸ばす事を第一にする心の在り方ですね」 と私が言った。

「 そのとおりだ。できるかね」

「 ワタシがやってきた事のなかにはそのようなこともありました」

「 しかしやむ得ない場合以外その力を無暗に行使したくないのです」

「 それについて皆で合議をはじめましょう。わたしはみんなの決定に従います」

「 ひとつはメディアの在り方だ。偏狭な考えで世論を操作をしている」

「 ゴシップや占い、くだらないお笑い番組、食い物のレポートばかり流しおる」

「 視聴率が上がらねばスポンサーも付かないからなー」

「 料金をとるNHKかて同じように真似をしてる」

「 国民を阿保にしているのはテレビだけじゃない。新聞も、週刊誌も同じだ」

「 独裁国の国営放送よりましだがな。しかし感化される国民があわれだ」

「 政治家も官僚も小役人も警察も気に入らん」

「 シン! 興奮するな。話が逸れている。今は若者の話をしてるんだ」

「 私は政治家も裁判官も嫌いさ。今のままじゃ結婚できないじゃない」

「 お前結婚する気か。同性同志の結婚のことだな」

「 なによ、悪い?」 シズオがちらっとシンさんを見る。

「 機械の中を通すように一律的な精神変更は論外でしょう」

「 心理探査を行い、精神を固定化している抑制、抑圧の岩盤のレベルを測定して、

更に同意を得て介入となると時間がかかります。無理はしたくないのです」

「 やはり時期早尚か。社会情勢の変化の機会を待つか」 教祖はため息をついた。

「 親不孝三兄妹を見ると希望は残されているのが判る。気長に見守ろう」 と

コウさんが慰めた。



--4--

「 ところであの少年が絵を持ってきたぞ」 コウさんが言った。

「 少年って伸夫君かね」

「 自分が描いた絵をあんたにどうしても見せたかったんだそうだ」

「 そういえば彼は絵が上手だったな。少し沈んだタッチだったが」

「 しかしうれしいな、積極的になって」

「 虐められた子かいあれが? だったら会って驚くぞ」

伸夫に会って唖然とした。ゼンの雰囲気に似ているが、どこか違う。

「 おじさんお久しぶりです。おじさんが励ましてくれたおかげで元気になりました。

ありがとうございます」 な、なんと泣かすではないか。子供ながらしっかりした口調で

挨拶できるとは。これがあのおどおどしていた伸夫か。元々可愛い子ではあったが

いまの彼は無垢な少年でありながら清純な光を持った目をしている。

ひと言で云えば羽を持ってない天使のようだ。

「 おじさんがぼくの絵が上手いから描き続けてごらんと言ってくれたので、

ぼく頑張りました」

 伸夫の絵はデフオルメされているが明らかに彼の両親だ。

ただの絵ではない。彼の思いが絵から直接伝わってくる、そんな作品である。

「 君の進むべき道はやはり芸術だな。わたしは心得が無いが、それでも解かるよ君の

才能が。すばらしい・・・」

「 本当ですか、うれしいです」

「 ともかくこれを皆に見てもらおう」 私は施設のロビーに少年の絵を飾った。

たちまち絵の周りに人垣ができた。賞賛の声やじっと見つめて動かない人、涙を

流す人もいる。それぞれの心に絵は何かを伝えているのだ。

「 彼がこの作品の製作者です」 私は自慢げに紹介した。

振り向いた人は伸夫を見て目が点になっている。

伸夫はニコニコと微笑み、輪の中に入っていった。

「 あの絵もそうだが、彼自身観賞に値するな。しかし展示はできないよ、生き物だ」

「 遠慮のない関西のおばちゃんなら触りまくるところだろう」 コウさんがつぶやく。

「 人間も捨てたもんじゃないな」 ロクさんが感慨深かげに言う。

「 ゼンさんの場合と一緒だ。あの少年はずっとつらい境遇にいた」 と教祖。

「 それが彼の才能を育てる要因になったのか」

「 ゼンさんもいじめを受けたり引きこもりだったらしい」

「 いじめや人を傷つける者は必要悪という理屈になるね」 

「 話はかわるけど児童養護施設の子らをここに招待したいんだ。今ならいろんな

果物がなっているし」 と私は提案した。

「 そうだな、みんな喜ぶと思うよ 」

「 ジバも孫みたいな子供達がくれば絶対喜ぶぜ」 とメンバーは賛成してくれた。

園長に相談し夏休みの林間学習という名目で大勢の子供達がやってきた。

子供達は気さくなジバにすぐ慣れて果物狩りを楽しんでいる。一番喜んだのは

犬たちだった。

いまや頭数も増え子供達にじゃれついている。こんな経験がなかったのか

子供たちは犬たちと走り回ってよろこんでいる。

「 ありがとうございます。この経験はみんなにいい影響を与えるでしょう」

「 伸夫のことは責任重大です。いずれ専門の学校で学ばせてやりたいものです」

園長の言葉に私は頷いた。

「 彼と相談しましょう一番いい道を。しかしまだ彼は何のために学ぶか分からないで

しょうから。将来美術系の大学に行くのがいいか、直接画家の弟子になるのがいいのか」

「 それに今は絵に夢中のようですが、美術は色々ありますから永い目でみるのが

いいでしょう」

「 そうですね。私はあの絵を見て狼狽えてました。園からあのような子が生まれた

のが嬉しかったのです」

「 解ります。私もそうでした」 私はつくづくこの園長はいい人だと思う。

「 園長さん。以前云ったことですが、他にお手伝いができることがあれば遠慮なく

おっしゃつて下さい」

「 貴方がたの資金的援助で経営も随分楽になりました。子供達にもその方面では

あまり不自由はさせていません」

「 入所している子供たちもそうですが、私は卒園した子供達も心配なのです」

「 一人立ちできる子もいれば、そうでない子もいます。基本的な能力に欠ける子には

私どもの力では何とも仕様がないのです」 

「 解りました。ハンデを無くし社会でも通用する基本的な能力を高めればいいのですね。

子供達を少し調べてみましょう。それに卒園してもうまく社会になじめない人も紹介して

下さい。お力になりましょう」

子供らの中の伸夫を見てコウさんが言った

「 ヤマさんのあんたは壊れかけた人間を復活させる名人だな」

「 リサイクルと一緒にしちゃだめだよ」

「 分かっているよ。ホームレス一流のジョークだよ」



--5--

米国の圧力が高まったそうである。

水の分解技術を引き渡せと言っているそうだ。

まったくあの国は狂っている。力を背景に押せば引っ込むという考えを固持している。

古い話だが第二次世界大戦に日本が引き込まれたのは彼の国の政策が主な原因で

ある。空襲や原爆投下による多くの犠牲者を日本は出した。原爆については何も

都市に投下する必要はなかったのだ。

彼らは予想されるソビエトとの対立に圧力をかける為に効果検証を行ったのだ。

被爆者の治療と称して市内の比治山にABCCという施設を造り効果検証を行なった。

東京裁判では多くの人が戦犯として殺されたが、一番に戦犯として抹殺されるべきは

米国の二人の大統領と民間人を無差別空襲で大量虐殺を続けたルメイだろう。

そのルメイを日本の政府は表彰している。

戦後も米国の戦略は国益を優先しており、他国と摩擦をおこしている。

しかし現状では巨額の財政赤字で米国の経済支配も軍事影響力も破綻をきたしている。

だからこそポチのような国には強硬な態度をとるのだ。

今回も現内閣に長期政権を維持したければあの技術を渡せと、暗に脅迫している。

「 どうする、どうしたらいい」 と首相はオロオロ声で連絡してきた。

「 いまのところ、のらりくらりと躱していなさい。そのうち引っ込めますよ」

「 そんなことは無理だよ」

「 まあみていなさい」

米国の有力紙は国の卑劣なやり方すっぱ抜き批判した。暴露記事で多くの議員から、

汚い手段で技術を盗みとるなどは我が国の誇りを傷つけるものだと猛反対が起こった。

普段なら自国の利益の為なら黙止するのが大方のメディアと議員である。

何か不自然だ。

国会での追及はますます激しくなり大統領は国務長官を更迭した。

とかげのしっぽ切りである。

懲りない米国はTPP条約を無視し車の関税を倍にする通達をしてきた。

TPP条約は事実上米国の手により破綻した。

TPP加盟国はこの暴挙に大反対し、米国議会は紛糾した。藪から蛇である。

大統領の株は下がる一方となり、米国は前言を撤回し、財務長官を更迭した。

内外の批判の中、やけになった米国は突然安全保障条約破棄を伝えてきた。

しかし対応はすばやかった。国防長官を始め軍関係者が反対にまわったのだ。

ついに大統領は辞任した。天に唾した帰趨はみじめな結果を生んだ。

「 あなたの仕業ですな。想像を超えてます・・・恐ろしいくらいだ」

「 さあどうでしょう。ともかく貴方の障害はひとつ減りました」

「 まだなにか問題があるのかね」

「 さあどうでしょう。今後米国とは自信をもって堂々と渡り合ってください」

威信がた落ちの米国を横目に今度はロシアが恫喝してきた。

金や石油の資源国であるロシアにとって極東の島国、日本経済の盛況は見過ごせない

らしい。北方四島の返還をちらつかせ、水の分解技術の提供を申し入れてきた。

「 提供を少し匂わせて千島列島とカラフト半分を要求したらいいのです」 とオロオロ声の

首相をはげました。

無理もない。日本の様な課題山積みの国のトッブは名誉は得るが、改革の本気度に

比例して悩みは増し、ストレスは半端ではないだろう。

「 貴方がわたしとの約束を守ってくれていることに感謝しています。もしよろしければ

ストレスに強い体質に替えられます。貴方は薬に頼っているでしょう?」

「 そうなんだよ・・・分かるのかね」

「 まあなんとなくですが」

 日本の煮え切りらない態度に北方の熊が怒った。いきなり四島でこれ見よがしに

軍事演習を始めた。

心理強化で堂々とした態度で発言をする首相はいい男にさえ見えてきた。

支持率はさらに上がり、オバサンはかっての韓流スターを見るような目を向けている。

ある日、スーチン大統領のスキャンダルが国営放送を含め各メディアにより報道された。

収賄、横領そして多くの女性とのスキャンダルである。

必死に打ち消そうとするがその様子は海外メディアでも面白可笑しく流されている。

大統領はスキャンダルの報道にかかわった者を含め政治家の粛清を始めようとした。

さらに何を思ったか消費税を復活させる決定を表明した。しかも税率は10%

金価格の下落と石油や天然ガスのだぶつきが始まりそれによるルーブルの下落と

経済成長の極端な鈍化。対ロシア制裁により増大している地方予算の赤字を補填する

名目である。
それを今やるとは・・・。

当然、国民の怒りが爆発した。連日各所でデモ行進が始まりついに軍が介入した。

しかしその圧力は政府に対してであった。

すでにかなりの数のわたしのブレーンがロシアの政治局員と軍関係者にいたのだ。

大統領は辞任に追い込まれ、新しい大統領が民主的に誕生した。



--6--

ワタシは今地球外生命体と会話をしている。

「 何故民族とか国に別れているのか理解できないんだ」

「 それは地球で意志のある生物が持たざるをえない悲しい宿命なのだよ。これでも人間は

葛藤しているんだがね]

「 面倒で可愛そうな生き物だな。ますます興味が湧いてきた」

「 そんなんじゃ富とか地位とか損得とか云ったって分からないだろうな」

「 価値観のことだな。面白そうだ」

「 誰とはなしているんだ」 私は不自然に沈黙しているわたしに訊ねた。

「 あの物質の提供者だよ。宇宙が発生する頃から存在しているらしい。人間は面白いと

云っている」

「 それはそれは。宇宙にはいろんな生命がいるんだろうな」

「 こんど聞いてみるよ」

「 ところで原発テロを画策している国があるんだ」

「 あの変な将軍様の国だろう。拉致した人の返還を匂わせて、金と食料、石油を要求して

いるんだな」

「 全員の返還じゃなくって小出しにして金をむしり取る気だ」

「 あんたのことだ。手は打っているんだろう」

「 あの国とは正式な国交がないし、簡単にわたしの意識が浸透できないんだ」

「 なるほど、将軍様に近づこうにも何層もの障壁があるのか」

「 替え玉もいるし、危ないと感じたらシェルターを移動するらしい」

「 ならどうするんだ」

「 困った時の神頼みだ。彼に相談してみるよ」

「 あんたが万能でないのが分かって少し安心したよ」

「 それはどうもご愁傷さま」

「 冗談言ってる場合じゃないな。テロの方はどう防ぐんだ」

「 複数の原発の同時テロを狙ってるらしいから自衛隊に出動してもらう」

「 夜間にこっそり潜水艦か偽装した船でやってくるはずだ。だから原発付近を警戒して

いればいい。テロを無力化する新兵器も渡している」

「 原発を攻撃されたらえらい事になるからな」

「 今回は首相もやる気になっている。国のトップは自信を持つことが大切だ」

「 話はかわるけど首相の政策でご不満があるんだ。改革の心は大切だけど、人心から

乖離したデフレ抑制策だよ。企業が儲からないからとインフレに戻そうとするのは良くない

と云っといてよ」

「 自民党の宿命だよ。経済と企業の優先を否定すればあの内閣は瓦解するだろう。

永い眼でみてやろう。試行錯誤して少しずつ修正すればいいんだ。貧しい国を見てきた

だろう。この国は我慢できない程じゃない」

「 年寄は気が短いからな」

伊豆の施設では大勢の年寄がモニターの前で成り行きを固唾をのんで観ていた。

政府から監視衛星とXバンドレーダーにより不審な漁船と潜水艦が網に掛かったと

連絡があったのだ。 

施設から飛ばされたドローンがその様子を送ってきた。

夜間にじわじわと接近してくる敵を自衛隊の艦船が包囲を狭めている。

潜水艦にはホーミング魚雷、艦船にはワタシか提供した精神波弾をおみまいした。

潜水艦はあっけなく轟沈。侵入艦船はコントロールを失い漂っている。

何が起こったか分からない生存者を収容して海戦は終了した。

「 海路一万五千余里・・・」とか

「 露軍討つべし破るべし・・・」 とジバが歌いだす。

あちらこちらで万歳三唱もやっている。この無邪気さにはかなわない。

「 日本の帝国主義は許されない。東京、及び原発は火の海になるだろう」 と平城放送を

通じ偉大な将軍様は訳の解からない表明を行った。

相当頭にきたのだろう。監視衛生のデータ解析から軍の移動が活発になり、ミサイルの

燃料注入が始まったと政府から連絡があった。

「 今はイージス艦と地上の対空ミサイルで対処すると国民に伝えて下さい」

「 君の力を信じていいんですね」

「 今度はわたしの友人に対処してもらいます」

「 誰だねそれは」

「 わたし以上の力を持つ存在です。安心してお待ちなさい」

「 あうあう」

中短距離ミサイルに続き中距弾道ミサイルが発射されたが未知の力の干渉で

黒い闇の中に消滅した。

失敗に驚いた将軍様は核シェルターの奥に引きこもった。

「 私達に強攻な手段をとらさないでください」 と外交ルートを通じて首相は北の国に

電話で伝えた。しかし北朝鮮政府から一切の返事はないと首相から連絡してきた。

わたしは偉大な存在 (仮の名前をAとした) の力を借りて直接将軍様に話しかけた。

「 もうそろそろ硬い殻を脱いでもいいのでは?」

「 貴方のリーダーシップを国民の為に使えば国民は勤勉なのだからお国は大きく変貌

するでしょう。これからは駆け引きなしでいきましょう。

「 我が国は、貴国民の為に援助は惜しみません」

「 迷わないで下さい。第一貴方はいま丸裸ですよ」

「 つまり貴方が影武者を使おうが、どこに移動しようが丸わかりなのです」

「 たとえば今貴方は第五号シエルターの第三居住区A室にいますね」

 ガタンと大きな音がして電話が突然切られた。

恐怖に負けた将軍様は命を絶ってしまった。 

暫定政府との交渉、そして援助物質の運搬供給は政府の手で速やかに実施された。

収容所から解放され弱った人たちの療養と治療はジバの活躍でスムーズに行われた。

北の国から帰ってきた人たちは療養が必要な人は伊豆の施設で預かり心身のケアを

受ける事になった。

大韓民国はそれを冷やかに見ていたが、統一の「と」 の字も云わなかった。

大韓民国の頭越しに北朝鮮を解放したのがお気に召さないようだ。

口では統一は民族の悲願とか言いながら、北と統一した場合の経済負担が大きいからだ。

感情的国民も内外の批判を受け冷静に対処しようとしている。

メディアは盛んにジバの事を取り上げている。おおむね好意的だが、医師会や宗教団体は

私達の行為を神や仏を冒涜するものだと批判している。

まあ誰でも老い、死を目前にする時がくる。その時現在の医療や人間が創造した

神仏がどれだけ頼りになるか判るだろう。

財産や地位など失うものが大きい者ほど、その時を迎えてあくせくもだえるはずだ。



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第14章 エピローグ
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