第十一章  ゲリラとの遭遇



フィリピンから、さらに奥地への援助が始まったと連絡が入った。

ゼンさんの能力はは絶大でたちまち村民の心を捉えた。

これまでどおり食料、伝染病などの治療、井戸の掘削による清潔な水の供給など

いずれも前の村の経験を活かしたやり方で援助が進んだ。

貧困から抜け出る見通しが出来たことで村民の顔が明るくなった。

この村の運営のほとんどを村人にまかせる時がきた。

村の広場で別れの宴会が始まり、例の演奏で盛り上がった。子供たちには花火で

遊ばせたら大喜びだ。そんな中、護衛兵の隊長がすまなそうに言った。

「 申し訳ないが我々が一緒に行けるのはここまでです。この先は反政府のやつらの

勢力範囲なのです。あなた方はそれでも行くのですね」

「 そうですか、ここまで来れたのもあなたたちの御陰です。あなた方と友人になれたことに

感謝します」

「 我々はここまでしか進めませんが、補給物資はここまで確実に運びます」

「 先の村からも援助を求めてきています。危険でも行くのが我々の使命とおもっています」

「 そうですか。ご無事を祈っています。でもあなたがたは何か不思議なパワーを

お持ちのようですね」

「 そのことについては、いずれお話できる時がくるでしょう」

次の村に到着した途端、武装した集団に囲まれた。

ニヤニヤ笑いながらリーダーは前に出ろと言っている。前に出たゼンさんはお金は

すべて渡すと言ってスーツケースを前に出した。

びっしり詰まった札束に驚き、武装集団の全員がゼンさんを見た。一瞬のうちにゼンさんの

瞳の光に捕らわれてしまつたようだ。全員動作を止めている。電池切れのように

固まっていた武装集団はやがて金を持って引き上げていった。 

「 もう彼らは邪魔をしません。一応彼らも面子を保ったようですし」

「 ウヒャー! びびったー 小便をちびりそうだった」 とコウさんがため息をついた。

「 有り難い、ゼンのおかげだよ。これで仕事が始められる」 ロクさんが張り切る。

前の村と村民の生活に違いはなかった。武装集団が村民の生活に協力してくれている

訳ではないらしい。そのせいか前の村より貧困がすすみ、猜疑心が強いのを感じる。

「 まあ焦ってもしょうがない。ここの人が悪いわけではないよ」

「 わかってるさ。人間が複雑な生き物だってことは」

「 あれをみろよ。ジバが早速仕事を始めたぞ」

「 俺達も負けずに頑張ろう」

ジバたちは仮設住宅の材料と土木機材を降ろし、地面を均すと手早く仮設住宅を

組み立ててゆく。一方で井戸を掘る場所を村長と打合せ、希望する場所を選定し、

掘削機具を組み立てて、熟練の作業員顔負けの効率の良さで、はや掘削に

取りかかっている。

「 学習能力が優れているとはいえ、あきれた年寄だな。あの勢いに村の人が

びっくりしているぜ」

「 基本的に村の人は貧しくてもお互い助け合ってきたんだ。わしらの本気度はすぐに

理解できるさ」

「 ここの村の主食は少しの米とタロイモらしい」

「 やはり現金収入が不足してるんだな。米の他に副収入になるものは何がいいかな」

「 前の村から報告があったらしい」 とジバの一人が急いでやってきた。

自分たちが懸命に関わった作物の成長具合が気になっていたらしい。

「 もう収穫できるらしいんだ。残っていた仲間から報告があったんだ」

「 あの米が大収穫らしい、行ってみたいなー」

「 よし、交代で行ってみよう。この村の人にも見せてやろう」

最初の村に入ると素晴らしい光景が目に入った。

背丈は低いが実った穂が常識外の大きさで、しかもびっしり絨毯のように田を覆って

いる。さすがワタシが説得したハイブリット米だ。

「 米自体が納得してるからね。感謝の気持ちが米に伝わるんだ。それに村人のやる気と

努力が実ったんだ」

「 ジバにも礼を言わなきゃな」

「 人の喜びが彼らの原動力さ。見てごらんあの人達の溌剌とした動きを」

「 あそこの仮設住宅じゃジバが先生役をして子供達を教えているぞ」

明るい子供達の笑い声が聞こえる。何かジバが面白いことを言ったらしい。

「 よかったな! 役にたって、」

他の村人もこの光景に信じられないものを見ている様子だ。

こうして村落の援助は順調?に進み、当初の予定より早くクリアした。

「 難しいことだろうが、マニラのゴミを漁っている子供達を見ただろう。あれをなんとか

出来ないだろうか」 援助作業が一段落したころロクさんが言った。

「 そうですね、この国は資源も大してないし、貧困のスパイラルに陥っているからね」

「 子供たちにもそのしわ寄せがきているんです」 そうゼンさんが言った。

「 あの掘立小屋がびっしり寄せ合った環境では援助するにも現物援助くらいしか

できないしな」

「 あの人達を開かれてない場所に移動してもらって新しい村を開発しては?」

「 ソ連のコルホーズはそれで失敗したな」

「 あれは強制したからだ。それに国のバックアップが不十分だったからだよ」

「 いくらでも人のいない土地があるよ、この国には。政府に情報をもらおう」

「 私達は見返りを求めないのは解かっているはずだ。資金は十分ある。あとは多少の

賄賂を使って協力を頼むんだ」

「 今までの実績があるしな。政府にとって損な取引じゃないよ」

フィリピンには多くの島があるが、反政府組織の勢力範囲にある処もある。

何も手を打たなかった政府にも負い目があるだろうから、本島の未開発地域を紹介して

もらおう。それで民間の土木業者も潤うはずだ。

都会の貧しい人を連れて援助した村に連れて行き、現状を見てもらった。

彼らの心に響いたかどうか分からないが、私達の考えは理解したようである。

そうして買い取った広大な荒地の開発が始まった。土地の開発には時間がかかる

ようだから、貧しい人たちを集めて、やろうとしている事をリサーチした。

この人たちは日本人にはない明るさがある。その日暮らしも他人事のように

楽しんでいるかの様にみえる。

しかし子供たちの生活はそれでいいのか彼らの心の中に聞いてみた。

やはりそうではなかった。貧しさから抜け出そうにも出来ないのだ。

自分たちの手で生活が向上するなら、そして子供に教育を受けさせられるなら今の生活を

捨てるのに何も問題はないらしい。私達はそれを聞き大いに安心した。


耕作予定地の準備が出来、水源や基本的なライフラインの供給が出来る様になった。

仮設住宅がジバたちと先に援助した村民の協力を得て建てられた。

そこにマニラから人々がやってきた。しかし何となく落ち着かない様子だ。農業の経験が

無いからだろう。


「 はじめは不安でしょうが、何でも相談してください。私達は貴方たちが自立できる


まで協力します」


「 今日は歓迎パーティをします。楽しんでください」


先の村人との交流が始まり、色々な説明を受けて大分リラックスしたようだ。


我々の演奏と歌は受けた。やはりシズオは若い男達の人気者だ。


「 お姉さんきれいだね」 と声をかけられると


「 よくいわれます」 と調子にのっている。

「 基本的な衣類や食料その他の生活用具は揃っています。足らないものは言って下さい」

 と言われ村民はあまりの厚遇にポカンとしている。

「 今日はゆっくりやすんで疲れをとってください」

「 あしたは新しい村の会議を開きます。ここはみなさんの村ですからね」

「 それから、皆さん身体は出来るだけ清潔にね。シャワー室や手洗い所を有効に

使って下さい。そのあとで健康診断を受けてもらい、治療が必要な人は医療室に行って

もらいます」

こうして新しい村が立ち上がった。紆余曲折はあるだろうが心配はないだろう。

ゼンさんとジバのちからでこれまで難題を解決してきたのだから。


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第12章 親不孝3兄妹
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