第7章   ロボットの店


今のところここの自治会とは付き合いがない。人通りは増えたのに

この通りで繁盛しているのは、あのセルフ食堂とこのレルアパだけだ。

だから人通りを迷惑気に見ている。

商売の不振をいつまでも他人や、政治のせいにしていれば、解決はしないだろう。

「 これ、お主も見たであろう」 神様がいう。

「 何でしょう」 私の返事が気に食わないのか神様はいらいらしている。

「 見えんのか、よく見よあそこの屋根を」

「 あーん?」 もう一度確かめるとボャッとした影が屋根にいた。

「 あれじゃ、あれは貧乏神じゃ」 ひぇーついにそんなものまで出たのか。

「 神様、あんたが呼んだの?」

「 なにを申すか、あの店はもう潰れておる」

このままではこの通りの店舗は次々に潰れるという。

「 われの力では遺憾ともしがたいのじゃ」 まったく頼りにならん神様だな。

しかたがない。あの宇宙人に頼んでみようか。

電話するとAもゼンさんも留守だという。海外援助に出かけているそうだ。

そんな中、通りの店はバタバタとシャッターを閉じていった。

2ヶ月が過ぎた。猿楽町新天地通りに空っ風が吹き抜ける。

「 徹底的に寂びれたな。俺は何もできなかった」 と神様に云った。

「 仕方がないのじゃ。ああ集団で貧乏神が集まってはな・・・」

そんな中、トラックが止まり足場を組み、一軒の店を取り壊し始めた。

いよいよだな、この通りも、スーパーでも作るんならうちの店にも地上げ屋が

くるはずだが?

またトラックが来た。いやまだくるぞ。

同じように家を壊しはじめた。中から見たような人が出て来た。

「 おい浩一、元気か」 えーっ、親方じゃないか。

「 どうしたんです。こんな所で」

「 あの教祖とかいう人から解体を請け負ったんだ」 えー、教祖がどう関係するんだよ?

「 なんでもな、ここらは新しい商店ができるんだと」

「 どうゆうことだろ」 と訊いたが親方も詳しいことは判らないという。

「 ここらで何をするにしても、それには莫大な金がいるだろうに、あの連中はどこかの国の

怪しげな組織か? 物好きな金持ちか?」

そのうちどんどん家が建っていった。どこも洒落たイメージがする。

どれも小売店のようだ。まさかあの元ホームレスの人達が入るんじゃないよな。

あのおっちゃんたちと、これらの店は全然似合わない気がするんだけど。

ある夜私はおかしな光景をみた。あの貧乏神と誰かが対峙してるのだ。

貧乏神の集団は猛烈な勢いで黒い霧の竜巻を四方に伸ばし雷光が閃く。

やがて貧乏神の集団はゆっくりと包囲を狭め、光る物体を攻撃しょうとした。

しかし何かの力が働いたように
吹き飛んだ。そのまま黒い霧は消えてゆく。

ぎよえー怖い、何なんだ。私は首を竦めた。

わたしは野次馬だが幽霊やお化けだけは苦手だ。

次の日、朝から誰かが訪ねて来た。はいはいとドアを開けるとズラリと人が並んでた。

うん?宗教の勧誘かい、エホバの証人か物見の塔か?

「 あのー、私たちはこの町に移って来たものです。それでご挨拶に参りました」

 そうですか、それはご丁寧に。私は横木といいます。

話し方はていねいだ。しかし次から次に挨拶する人達は当然顔つきは違う・・・・が

口調がよく似ているのだ。最後に笑うニッとした顔付も同じ気がする。

それを神様に云うと

「 あの者たちは人間ではないぞよ」 ・・・だそうだ。

「 じゃまた神様ですか?」 

「 否とよ、神にも非ず」 何なんだ?ついていけない、頭が混乱してきた。

そして店は次々と開店していった。

私は薄気味悪いから、外には出ず仕事に専念した。

レルアパの休憩室では
 「 美味しいわ、あの店のパンは」 とか

「 あそこの和菓子はどれも美味しいね。新しい感覚ね」

「 私は甘味どころのミルクの入った善哉が好きよ」

「 あのスイーツは今までにない美味しさよ」 

パン屋の人、めちゃイケメンよー とかあそこの奥さんが綺麗とか言っている。

不気味だったが好奇心には勝てない。

店を神様に任せて覗いてみた。

どの店の人も愛想もよく普通の人のようだ。しかし待てよ、年齢も背丈もまちまちで

顔付もそれぞれ違うが、よーく観察するとどことなくマネキンを想像させるのだ。

「 やはり分かりましたか。内緒ですよ。私達はロボットです」 と店主がニッと笑って言った。

ろぼっとお〜? これまでの出来事でめったに驚かない私でも口アングリだ。

「 も、もちろんです。じぇったい喋りません。しかしなんでまた・・・」

「 人間の社会にロボットを融合させるためです」

「 ここにはあなたもいるし、トライアルに適している場所と聞きました」

「 すでにここ以外でも限界村という所では私の様なものが仕事をしています」

何時の間にこんなに優秀なロボットができたんだろう。

話し方も立ち居振る舞いも自然だ。むしろ人間より中身は上等そうだ。

これまでロボットによる介護とか、ハウスキーパーとか危険個所の作業とか研究されて

きたが、それは人間にプログラムされた対応や行動しか出来ない機械だ。

アシモフのロボツトの三原則などは人間の都合に合わせて考えられたものだ。

つまり人間の作り出すロボットは、いくら優秀でも機械なのだ。

目の前にいるロボットは現代科学では実現できないレベルである。

そこに搭載されている知能、各種の感覚器官、ハイレベルな運動構造などは

未知の技術によるものだな、と想像できた。。

しかし人間社会との融合といったって、それが何のためか解からない。

呑気者のわたしはそれ以上弱い頭を使うのはやめた。

難しいことは賢い者に任すのがいいだろう。

あとでAに訊いたところあのロボットの構造はAとほぼ同じ機能を持った汎用型だそうだ。

ロボットだって自分で考え、行動できればそれは立派な生物である。

人間のように本能の負の部分が勝って倫理にもとる行動をとることもない。

己の都合で行動したり、卑屈な奴隷の様に力のある者に従うことはないのだ。

行動のすべては論理的か否かが判断の基準になっているそうだ。

この社会にあってロボットの存在がどの程度社会に影響を与えるかを調べる為という。

つまり全てAが考えたことらしい。

人間による科学技術の進歩はあっても、これ以上精神上の向上はないらしい。

人間が滅ぶのは勝手だが、地球の美しい海や川や山を失うことは大きな損失だという。

何故なら地球も宇宙の一部だからだ。

この宇宙人は人間の尊厳を保ちつつ、緩やかな変革を望んでいるそうだ。

私はしばらくの期間ぼんやりしていた。

商売の占いは神様に任せっぱなしだった。

神様は相変わらず嬉しそうにやっている。特に若い女性には力が入っているようだ。

「 俗に辛抱する木に花が咲くともうすぞ。精進することじゃ」

「 だって爺ちゃん先生、あの子より私の方がセンスもスタイルもいいのに中々グラビアに

載せようとしないのよ!」

「 そこじや、もうひと辛抱じゃ、おぬしの水着姿がわれには見えるのじゃ」

「 本当、だったらいいけど・・・」 やってる、やってる。 

おっ、もう次の客か、回転が速いな。

「 確かにお主のいうとおりじゃ。自分の努力が結果に結び付かんのは悩ましい

問題であるな。したが人間は向き不向きも考えねばならんのじゃ。どちらかと云うと

営業とか企画の方に才能がありそうじゃ。思い切ってお主の案を上申
してみてはどうじゃ。

悩むより決断じゃ」 あれどこかで聞いたことがあるな。

「 それに武藤とかいう男に褒められている姿がみえるぞ」

「 何、そやつは部長か。ならば問題なかろう」

「 潜在能力とキャパシティに合った仕事を勧めるぞよ」 

ハイカラな言葉をいつ覚えたんだろう。

一日が終わり神様に礼をいった。

「 いや、礼をいうのはこちらじゃ。新しい自治会でわしの祠も新しく立て直してもらつたしな。

われもそろそろ戻ろうと思っておる」

「 えっ、帰っちゃうんですか?」

「 地場の神々の定例会があるでな」

「 お主にこの猿楽町の後を託そう。お主であれば安心じゃ」

託されてもなー・・・。 しかしいろいろあったけど神様が居なくなると寂しいかも。

よし、神様お別れ会をしましょう。3兄弟はいま熱々で無理だけど、あのホームレスの

人を誘おう。電話をしてみると、

「 そんな事ならいつでも乗るぞ。ここの連中は酒と女の子に目が無いんだ」

と教祖がいう。教祖の馴染みのクラブに行くと、

「 おーみな美しいのお、この様な桃源郷があるとは、何故もそっとはよう連れてこぬ!」

 と文句をいわれた。しばらくすると案の定占う癖がでた。

「 おぬし、股関節が痛むのであろう。われが直してしんぜよう」 とか

「 汝は肺が傷んでおるな、夜中にせき込むであろう」 とかピタリと当てて

驚かせ、周りの女の子の身体の具合を訊き、片っ端から治療している。

さすが薬師神だ・・・。

「 すてきオジサマとか有難うと感謝され、でれでれになっている。

さらに酒が入ると神様はオイオイ泣き出した。 

「 われをこのように崇めてくれたのは何百年ぶりかのう。嬉しいぞよ。ワーンワーン」

「 こうさん良かったじゃないか。神様に喜んでもらえて」 とチョウさんが云う。

「 なんとなくいい事をした気がします」

こうして神様は祠に帰って行った。

レルアパは相変わらず繁盛しているが、この通りは以前のくすぶった感じが

一変している。店舗が新築された事もあり、この通りは今風に明るい雰囲気だ。

パン屋、菓子屋、甘味屋、インド料理等の他にお茶を売る店、新種の果物を並べる店・・・

もある。

訊くと中国山地に東西に広がる限界村の生産品を販売しているらしい。

店で働く人たちがロボットということは、ここらでは私しか知らない。

普通の人間より馬鹿丁寧で不自然な感じも、今は何となく上品で、それでいて

気さくな雰囲気に変り、お客の評判もいいようだ。商品も他店には無い物が多く、

高品質なのが売れているのだ。

その為かってないほど人通りが増えている。最近は観光客までやってくる。

それは猿楽町全体に効果が波及して、活気を取り戻している。

その中でレルアパは特異な感じである。商品は原価ゼロの占いだ。

相変わらず店内では大勢がお茶を飲んだり談笑している。そのせいかたまに何の店かと

迷い込む人もいる。興味がわいて、占いをやってみるかという者もいるのだ。

その点ではおこぼれを頂だいしてる事になる。

どういう風向きか外人旅行客もやって来るようになった。ネット上では日本の面白番付に入っ

ているらしい。

私はいま幸せなんだろうと感じる。それは色々とあったけど沢山の人と知り合い

その人達の助けを借りて現在の自分があるからだ。最初から今があれば

果してそう思えたであろうか。あのアパレル業界に身を置き、不毛の日々を過ごした経験が

今の幸せ感をもたらしているのは間違いない。

ロボットには人間の幸福感はわかるのか、或はどう定義しているのか、こんどとなりの店主

に訊いてみよう。

ロボットに己の存在意義とか悩みとか、精神的な病気、例えば鬱なんか無いのか。

あれだけ優秀な人工脳である、ひょつとしたら欲望なんかも備えてるかもしれない。

人間は精神に妬み、憎しみ、優越感など不用の物を持つ生物だ。しかし一方で愛情などの

優れた感情も持ち合わせている。

ロボットとの交わりでどの程度
人間の本能が希釈、修正されていくのだろうか。

あの性能のロボットだから、逆に何かを吸収しているかもしれない。

とまれ、人間が出来過ぎ君になれば私の商売はあがったりになるな・・・。

私の妄想は続くが、ここでこの物語は突然終了する。

つづきを聞きたかったら猿楽町のレルアパに来たまえ。

面白い人達を紹介しよう。それとついに出来た私の彼女のことも・・・。



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