猿楽町の占い師



 主な登場人物


横木浩一  ・・・・・・ 街の占い師

3馬鹿兄弟 ・・・・・・ アパートの友人 「さぶ、たけ、ごろう」

野島優子  ・・・・・・ 占いの師匠

神川四郎  ・・・・・・ 親方

元ホームレス ・・・・・ シン コウ ロク チョウ シズオ 教祖

A       ・・・・・・  宇宙人 

神様     ・・・・・・  猿楽町の薬師神




第一章  転職


第二章   用心棒


第三章  元ホームレスとの出会い


第四章  助っ人来たる


第五章  開店


第六章  回想


第七章  猿楽町の神様


第八章  ロボットの店

 








第一章  転職


「 ファッ、暇だなあ」 大あくびを一発かまし、首をぐりぐりまわす。

4時に開店して2時に店を閉める。それがこの占いの館レルアパだ。

不透明な世情を反映して、若い人たちには、ご利益を求めて寺や神社にお参りする

事が多い。

地域が勝手に作り上げたパワースポットとやらがウエブを賑やかし、パワースポットの

陣取りゲームさえ登場している。各地を歩き廻りお地蔵さんやら仏像などを片端から

ピッピッ取込み陣取りゲームをするらしい。

そんな世の中だから占い業界も好況である。

私は横木浩二、独身、27歳 目下暇を持て余している。

「 常連さんをつくることよ」 と女史はいう。

「 あなた動機が不純よ。金儲けじゃないって言ったでしょ。それじゃ駄目なのよ、

この世界は」

「 あんた、本当の事をそのまま云うでしょう。それじゃ駄目、嘘でも夢を見させるのよ」

そう自称天才占い師の女史はいう。

しかし、そんなことは私の心情に反する。

それではそろそろ、なんでこの商売を始めたのか、その経緯を話しておこう。

三流大学を出、やっとのことで就職したのは、これまた二流のアパレルメーカーだつた。

円安が災いしてこの業界もパッとしない。他メーカーの真似をして店舗を広げたつけが

重くのしかかっている。やがて望まない転機がやってきた。企画から店舗の店長にまわ

されたのだ。

そこでは自分の時間などない地獄の日々が待っていた

売り上げがすべての世界で、押し付けられた目標を達成するのは並大抵の努力では

達成できない。

アパレルの販売がこのように厳しいものとは知らなかった。

流行りの先取りを外すと、いくら価格を下げても見向きもしてもらえないシビアな世界だ。

売り上げの不振は本社企画部のセンスが主要因である。

なのに本社からは担当者から店舗のコーディネートとか商品の配置など煩く云ってくる。

まるでそれを怠っているのが、売り上げ不振の原因と云いたそうだ。

バイトを含めた職員への目配り、商品管理と私は毎日くたくたの希望の無い日を

送っていた。

アパートに戻っても寒々とした部屋が待っているだけである。

飲み屋ではいつもよりピッチがあがった。

「 やってられないな、まったく」 さっきからそればかり言っている。どうやら口癖に

なったようだ。

仕事への不満と、自分への不甲斐なさがごっちゃになって、それを口に出していたらしい。

「 あんた、情けないね、いい男がだいなしだよ」 横から声がした。

見ると、でかい女である。 

「 失礼ですが前にお会いしたことがありましたか・・・」 酔眼でにらみつけると、

「 あんた守りに入ってるだろう」 と女は言う。 

「 ん・・・」

「 判らないのかい、会社の理不尽さに文句があるならさっさと飛び出すんだよ」

「 こんなところでくだをまくより、さっさと勝負に出るんだよ」

「 こんなところとは、言ってくれましたね」 と飲み屋の親父が言う。

「 つまり、会社をやめろって事ですか」

「 あんたは真面目だね、すぐ本気にして」

「 辞めるか辞めないかはあんたの気持ち次第だよ。自由になるかどうかだよ」

「 しかし、わたしの見るところ、このままではあんたの未来は暗いよ。使い捨てになるか、

病気になるかだよ」

「 そんな事が判るんですか」 私は驚いて言う。この女は何者だろう。

「 わたしは占いを仕事にしてるのよ。でも少し感のいいものならあんたを見ればすぐ

わかるわ」

「 あらいやだ、商売気だしちゃった。でもあんたを見ていたら気になってね」

「 よかったら、お店にいらっしゃい」 と女は名刺を差し出した。

心が引かれる。悩みで押し潰されそうな現状から抜け出せるなら行ってみようか。

結局、私は女の店に立ち寄った。派手な看板にLED照明が点滅し、店はわざと

怪しげな雰囲気を出している。小さなドアを開けて中に首だけ突き入れると

あのぶっとい女がいた。

「 やっぱり来たわね」

「 料金は15分3000円 30分で4000円の明朗会計よ」

「 あんたの現状は前に云ったとおりよ。だからそれを解決する方向で話を進めましょう」

「 まず今の務めを辞める事を前提に考えましょう」

「 あんた、優柔不断形だね。あーごめん、行動に慎重ね」

「 サラリーマンとして泳ぎ回るには、慎重な観察と決断が必要なのよ」

「 そしてミスを他人にすり替えたり、批判する側に回ることが大切よ」

「 役人なら何もしないのが特技のうちに入るけどね」

「 すでに会社での評価はかなり低下しているとみていいでしょう。どう?」

「 ここでの粗探しは必要だから勘弁してね」

「 たしかに、そうでしょう」 私はボソッと答えた。

「 やはりサラリーマンには向かないね。ならば決断すべきよ」

「 あんた何か特技はある?」

「 頭を使う以外ならあります」

「 何よ」

「 スポーツというか、古武道と日本拳法には自信があります」

「 あら、いいじゃない。今はカルチャー教室は大流行りよ。教室でも開いたら?」

「 私は口下手で、それにそんな資金がありません」

「 でも肉体労働は厭わないのね」

「 はあ、体力だけは自信があります」

「 じゃあ、こうしなさい。昼はバイトで肉体労働。4時からは私のところで学習するの」

「 はーあ、何を学習するんですか」

「 決まってるじゃない。占いよ。きちんと学べば有望よ」

「 えーっ! 占いですか」

「 その代りただじゃないわよ。 その間にご町内のガードをするの」

「 最近この辺りは物騒になってね、自治会も頭を抱えているのよ」

「 警察に云えばいいじゃないですか」

「 警察も民事不介入とか言い訳して頼りにならないよ」

弱い頭でも大体見えてきた。この占い師が自治会に安請け合いしていたのだろう。

「 やってもいいですよ。但し、ただではやりません。やばい仕事なら日当一万円でどう

ですかそれ以下ではやりません」

「 ギェッどうしたのよ、急にがめつくなって」

「 貴女は私がみるに安請け合いして困っていますね。必要なのは判断と決断と言ったの

は貴女ですよ」

「 うー、あんた占い師の素質があるわ」

「 ところで、お客さんが来ませんね」

「 いまの時間帯はね。もうすぐやってくるわ」

「 自治会の会長に相談するから店番しておいて」 と勝手に押し付けて出ていった。

店内の様子を改めて見廻すと大して金がかかってはいないようだ。

一人女の子が入ってきた。

「 あら、先生はいないの」 

「 えーちょっと外出しています。すぐに帰ってくると思いますが」

「 あなたもお客さん?」 スーツ姿の私を見ていう。

「 えー私はもう済みました。じつは占い師の生徒になれと勧められているのです」

「 つまり魔法使いの弟子なの?」

「 そんなところです。貴女は?えーっとお客さん?」

「 そうよ、どうお弟子さん、私を占ってみる?」

「 いーでしょう。当たるも八卦当たらぬも八卦、信じるものは救われる」

私は悪戯心でいった。彼女の外見は少し太めで、ピチッとフィットした服装で

年齢は26・・7、

仕事がアパレル関係なので女性とは常に接しているから普通より内面の観察眼がある。

「 お歳は27歳、お仕事は事務関係、今三つの悩みを抱えています」

「 一つは仕事の友人関係、二つ目は異性の悩み、三つめは体調関係ですね」

「 ヒエーッ そのとおりよ。すごい」

ふむ、俺の感が当ったか。すると占い師に向いているのか?

「 人間は状況判断と決弾です」 それにより悩みは解決するのです。

聞いたばかりのフレーズを言ってみた。

「 すっごーい」 単純な女だな。こんなんじゃ少し心配だ。

「 私ね職場でしかとされてるの。我慢しているけどどうしょうもなくて」

「 なら、解決法はすぐにやり返すことです。黙っていたら頭にのります。例えばその人が

上司と不倫関係にあるとかね。奥さんに電話するとか、社長宅に内容を送りつけるとか」


「 陰湿ないじめには陰湿な対応策で疑心暗鬼に持ち込み内部崩壊させるのです」

 自分には
出来なかった事を、この弟子は平気で云っている

「 まず貴女の心の不安のひとつをそれで対応してみましょう」

あなたには決断が必要です。これは便利な言葉だ。どうですかと問うてみた。

「 そうね、いつまでも我慢していても仕方ないのね。やるわ!」

「 足がつかないよう、慎重にやるんですよ」

「 分かったわ。光が見えた感じよ。有難うございます。先生のお名前は?」

「 レルアパです」 先生と呼ばれて私はいい気になった。まあこの人が幸せになれば

いいのだ。

「 初めてなのでお代はいりませんよ」 と言ったら感激して出ていった。



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