第六章  Aが帰ってきた


そんな時にAがおばさんと小さな女の子を連れて帰ってきた

モニタリングは止めていたし放し飼い状態だったから、どういう経緯でこの人たちと

知り合ったかわからない。

Aは少し薄汚れていた。服はクリーニングしたり、着替える事を言うのを忘れていた

のだ。人間じゃないから汗をかくこともないが、いい男がだいなしだ。。

「 やあ、よかった、面白かった」 Aは私にそう言った。

「 それはそれは、いい体験をしたようですね。ところでこの方たちは誰ですか」

「 神戸で知り合ったんだ。街を歩いていたら人相の悪いのがワーワー喚いていてね」

「 アパートのドアをガンガン叩いて、金をかえせとかなんとかいっているんだ」

「 面白そうだから見に行ったんですな」

「 そうだよ。そしたら囲まれてね、掴みかかってきたから止む無く軽く片付けて

おいたんだ」

「 なにが止む無くだ。期待どおりだったんでしょう」

「 むこうは少し怪我をしたかもね。二階から放り投げたから」

「 むちゃしますね、それでどうなったんですか」

「 部屋にはこの人たちがいて震えていたから連れてきたんだ」

「 俺以上に短絡的だな。まあいい、ともかくあなたと奥さんたちの服を買いにいきましょう。

それでは可哀想だ」

駅前の洋品店に行って三人の服や下着などを買って帰り、銭湯に出かけた。

女の子はAによくなついているし、おばさんは すみませんを繰り返している。

みんなきれいになってアパートに帰ってきたが、やはり四人では狭いので

大家のバアさんに空き室を紹介してもらい、親子はそちらに移ってもらった。

寝具や生活用品はレンタル業者に連絡して運びこませた。

「 ここでしばらく暮らしてください。事情はあとでゆっくり聞きましょう」

「 おいAさん、しばらくこの人たちの面倒をみるんだ。君が連れてきたんだからな」

「 ところで少しは事情を知っているんだろう」 とAに聞いた。

「 なんでもご主人が亡くなって多額の借金があることがわかり家も借金の抵当に

まわったそうだ。そしてアパートに移ったが借金取りがしっこく追ってきたわけだ」

私の部屋でAの体験談を聞いていると、女の子がやってきてAにまとわりついた。

「 おじちゃん遊ぼうよ」 なかなかかわいい子だ。

「 お嬢ちゃん、お名前は?」

「 沙良よ。おじちゃんは?」

「 わしはケンだ、よろしくな。ところで沙良ちゃんはほしいものはあるかい」

「 えーと、友達とお父さん」 なるほど無理もない。わたしはボンを連れてきてやった。

早速ボンと女の子は仲良くなったようだ。部屋の中を駆け回って遊んでいる。

「 人間は金に困ると大変なんだな」 Aが呟いた。

「 たしかにね。生きるために人間はあくせく金を稼いでいるんだからな」

「 余計に稼いでも他人に分けてやる者はいないのかい」

「 そこだよな、問題は。先に何が起こるか分からない不安もあってそんなことは

しない者がほとんどだ。貯めこむのが趣味の人も多いんだ」

「 そして口では助け合いが美徳というが、なかなかそれを実践できる者は少ないね」

人間は人の中にいれば安心するが、それでいて他人より上の暮らしを望む。

モラルとか常識、道徳を口にはするが、他人の不幸を喜ぶ習性など、考えていることは

邪まだ。金持ちと貧乏人がいれば金持ち側に身を寄せて安心する。

神とか仏を信じている振りをするが己の心情と矛盾していることに知らぬ顔をする

上手くやれば地球上は衣食住が保たれるのに争いは絶えず、一方で平和を主張する。

つまり人間自身、己が狂ってることに半ば分かっているのだが認めないのだ。

「 ますます面白い存在だ」 私の考えを読み取ってAが言った。

「 どうですか、A、この件が一段落したら海外を旅してみたら?」

「 おー外国か、興味があるある」

「 ジバの存在は知っているだろう。あの人達をみたら人間には違う面もあることがわかる

と思いますよ」

「 まあしばらくはあの人達のボデイガードをしていて下さい」

おそらく彼女らは今は静かな生活が必要だろう。落ち着いた生活の中から将来

何がしたいかが見えてくるだろう。

「 おじちゃん、ボンが何か言ってるよ」 と沙良が言った。

「 なんだボン何が言いたいんだ」 と聞いた。

「 僕はお父さんもお母さんも知らないんだ」 ボンが涙声で言った。

「 そうだったな、お前のことを忘れていてすまなかった。しかしお前、初めて口をきいたな。

えらいもんだ」 ひょっとしたらAのせいかもしれない。

「 あなたならボンの親がどこにいるかわかりますか?」 無理と思いつつ聞いてみた。

「 時間がかかるがやってみるよ」 Aは負けずぎらいだ。

私はAと沙良達をつれて水族館に行った。

イルカのショーに沙良ちゃんは大喜びだ。ついでに大きなイルカの縫いぐるみを買って

やると私の株も上がったようだ。

Aは魚の大群が泳ぎ回る様子を見て感激している。

「 これはすごい水族館にはこんなに魚がいるのか?」

「 これは観賞用に一部を集めたものですよ。実際の大洋には膨大な量の生命が

溢れています。人間も海で進化して陸にあがって繁殖したのです」

「 ふむふむ、そうか、それも見学してみたいな」

「 ジバが活躍している国の海には神秘的な美しさがあります」

ボンの親探しをAは続けていたようで何かそれらしい感触があったと言った。

私は養護施設の園長からボンの親探しに伸夫を連れて行く事を許可してもらった。

伸夫とボンの関わりからそれが良いと思ったのだ。

ボンを拾った場所から私達は捜査を始めた。一日目は何の手がかりもつかめなかった。

Aが地図上から感じた場所は東京と埼玉県の境だった。東村山市まで車で行き一泊した。

ボンの親たちはここを経由してどこかに行ったらしい。

「 確実に近づいているようだが明日は野宿になるかもしれないな。伸夫、平気か?」

「 大丈夫だよ、おじちゃん。ボンもちゃんと世話をするよ」

「 明日から奥多摩まで行って山に入るよ。みんな行けるかな?」

「 私は平気だよ。金鉱さがしで山歩きは経験済だ」

ついに奥多摩までやってきたが、本当ににこんなところにいるのか。狸か熊が出て

きそうなところだ。平気と言ったがやはり山歩きはきつい。伸夫とボンはどんどん

駆け上がっていく。

林が途切れた所に小屋があった。遠くから犬の警戒する声が聞こえる。

やがて髭ぼうぼうの年寄が犬を連れて現れた。

犬たちは最初、警戒してうなっていたが、何かを感じたのかボンに近寄り舐めはじめた。

ボンもうれしそうにしている。僕の両親だといっている。

私が事情を話すとその人物が言った。

「 犬と話せるのかね。面白い人たちだ。わしはここで陶器を焼いておる。長い間

街には下りておらんのだ。あの犬たち、ラッキーとメリーが家族だ」

私達は彼の小屋に入り陶器の作品を見せてもらった。伸夫がひとつの花瓶をじっと

見つめている。

「 ほう、それの良さがわかるのかね」

「 この花瓶には川が流れていて女の子がそこで笑っています」

「 そうか見えるのか! それはわしの娘だ。小さい時に亡くなったんだ」 不思議な

事だとかれは言った。狭いところだが泊まっていかんかといってくれた。

私達がやっている事を話すと、

「 今の世の中はわしには住みにくい所と決めつけていたがそうでもないんだな。

阻害されている年寄が世直しをしているのか。愉快な話だ」

「 よかったら時々私達の所で陶芸の指導をしてもらえませんか」

「 考えておくよ。あんた達の仕事ぶりを見てみたいし」

「 その気になった時には連絡を入れて下さい。迎えに行きます」

彼は田中博といい、今日にいたるまでの経過を話してくれた。要約すると、若い時に

一人娘を病気でなくし、夫婦の間が次第に悪くなり結局別れることになったそうだ。

仕事一本で家庭を顧みなかったのが原因だったと反省した。

仕事を辞め、以来放浪生活を続けてるうちに陶芸を学び、この場所にたどりついた。

ここにはいい粘土が出るからだ。小屋を建て、中古の耐火レンガを少しずつ運び上げ

一年かけてのぼり窯を完成させた。焼き始めてようやく納得いく作品が出来上がり、

知り合いの美術商と取引ができるようになったのは最近だそうだ。

ラッキーとメリーにはその頃出会い以来一緒に生活している。

山中なので猪や熊にも出くわすが、犬たちが追い払ってくれるらしい。

博さんはながい話を終え何かほっとしたようだった。

陶器の基本は土だという。長い時間をかけて土と対話するそうである。

不満をいう土、やたら話しかける土、強情な土、色々あるそうだ。

一度乾燥し、水分が抜けた土を小さい塊にしたのち、それをふるいにかける。

板の上に土をのせ少しずつ水を加わえてゆく。力をこめて土をこねる。

そして土に語りかけ、さらに時間をかけてこねるそれが大事な事だという。

どのような作品にするかが浮かび上がるときだそうだ。なるほど彼の作品には

人に語りかける何かがある。私にはそれを見通せないが伸夫には分かるのだろう。

彼は今の生活が一番充実して楽しいそうだ。

次の日、ボンにここで父母と暮らすか、それとも私達と暮らすかを訊ねた。

お父さんもお母さんも思っていたとおり優しかった。納得したから私達と暮らしたいそうだ。

私達は再会を約束して山を下りた。

私自身は現在の生活に満足しているであろうか。改めて心の内面を探ってみるが

さしたる不満も心さわぐ喜びもない。いきあたりばったりの生活だなと感じる。

「 なんだ! もっと大暴れしたいのかい」 とワタシが言う。

「 この歳になってそんなことは思いもしないよ。ワタシには夢があるのか」

「 そうだね、ワタシ自身成長を続けているが、想念の中で時空を行き来できたらな

と思うよ」 

「 だんだんAに近づいてくるな」

「 Aとはスケールが全然ちがうよ。Aにとって人間なんか取るに足らん存在だよ。

よく付き合ってくれると思ったほうがいい」

「 しかしボンも満足したようだし、彼は意志を伝える事ができるようになった。

これは持っていた資質かAのせいか解らんないがえらい成長だ」

「 全ての動物があれこれ云いだしたら騒々しくなるな。人間のせいでえらいめに

あってるから文句たらたらだろう」

「 ところでAに海を見せるのだろう? どこがいいかな」

「 船旅を経験させてやったらいいだろう。補給物資運搬の船に乗せるんだ」

「 じゃあフィリピンかベトナムあたりだな」



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第7章 元ホームレス軍団の噂
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