第四章  外圧高まる


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首相から電話が入った。

「 大変です。一大事です」

「 おかしいですね。世論調査では支持率は80%でいまや史上最強の政権といわれてるは

ずですが」

「 国内ではそうでも、外圧には弱いんです」

「 今度は何処です? 米国、ロシア、中国?」

「 国じゃあないんです。どうやら国際的に力を持つ組織が牛耳ってる国に圧力をかけて

そこから無理難題をふっかけてくるんです」

「 ほうほう」

「 材木輸入規制やマグロの輸入規制くらいならいいんですが、金の輸出規制、原油輸入

拡大とか・・・断わればえらい事になると脅しています」

「 日本を目の敵にしてますな。早急に背景の組織を調べます。それまで答えを引き

延ばしておいて下さい」

国際的組織となるとワタシでも力不足なのでAにわけをいって調べてもらった。

「 今のところそれに該当するのはフリーメーソンとかいう組織だね。よろしい、それに特定し

て調べてみよう」

大体分かったよ、と 数日後Aが言った。

「 フリーメーソンは裏で世界を支配していると云われる組織のひとつでね、世界や

日本の政治団体、宗教組織、暴力団にも浸透している」

「 今回はフリーメーソンの中でも利害関係に敏感で先鋭的な組織がかかわってる」

それでその中心的なメンバーと実際に行動する末端組織を調査しているそうだ。

そうこうしているうちなんと、首相の家族が誘拐されたと極秘裏に内閣調査部から連絡が

入り協力を要請された。

下校途中、車が何者かに襲われ子供が連れ去られたらしい。

あきらかに首相に対する脅しだが、今のところ犯行声明はないらしい。

放置された車に残された持ち物からワタシが監禁場所を察知した。その場所は

東京湾に停泊中の船らしい。機動隊に任すか思案したが、安全の為Aに協力を依頼した。

公安に極秘裏に連絡し船舶に気づかれぬよう少人数のみ派遣するように要請した。

波止場で車から降りたAは何気なく船に近づいた。

「 おい大丈夫か。それじゃあ丸わかりだ。どうするつもりだ?」 モニターを見ながら

私はAに聞いた。

「 今この船の全ての動きを止めた。公安に乗り込んでもらいたまえ」 Aが何でもないように

言った。私は船の中に入って驚いた。全てが凍り付いたように止まっている。

Aはこちらを見て悪戯っぽくニヤリと笑った。私は途方もない力を持ったAがひょっとして

未熟な存在である私達にあわせて子供っぽく演技しているのではと感じた。

監禁された子供は無事に救いだされた。Aに抱かれて目を覚ました子供は泣いたが

元気だった。

船内には武器ははあったが爆発物などは無かった。乗組員は全て外国人でワタシが脳内を

精査したところ、別働隊が水源を汚染する手筈になっていることが分かった。

細菌やプルトニュウムで汚染されると長期間水源は使用不能に陥いってしまう。

自分たちの利益の為にここまでやる組織は許せない。

だが汚染物質を投入できる場所は日本中にあるから始末が悪い。

公安にすべての捜査員を目立たぬように引き上げるように訳を言って頼んだ。

首相にもいいなりになる振りをして時間かせぎをしてもらう。

まずこの船の乗組員の頭脳を支配し連絡があれば異常なしと答えるようにしておき、

その間に指令を出す人間を特定しなければならないのだ。

ついに連絡が入った。すかさずワタシの分身がデジタル信号に乗って相手の脳に入り込む。

そいつは警視庁の幹部だった。フリーメーソンは誰でもメンバーになれるのか。

そいつは第一級国家公務員試験にパスした時から目をつけられていたらしい。

警察官僚として決められた出世街道を登るうち、様々な利権、誘惑に誤った特権意識が

芽生え、甘っちょろい国家体制に不満を持つに至り、同じような考えを持つ仲間の影響で

メンバーに入った経過が浮かびあがった。

こいつを押さえれば少なくとも実行命令を遅らせることができ、実行犯の所在場所を

特定できる。

「 こいつから潜伏場所が分かったから極秘裏に逮捕に向かってもらおう。この際だから

この国のメンバーと組織を解明したほうがいいね。メンバーの中には特権意識による

過激な者とそうでない者もいるらしい」 Aは慎重にことを始めるべきだという。

「 そうだな。この国のメンバーを牛耳るボスがいるはずだ。誰か分かるかな」

なんとその人間は与党の元財務大臣だった。なぜ日本の経済を破滅させようとするのか。

汚職がばれそうになって辞任したがそれに不満があるのかもしれない。

記憶をたどっていくと、外務官僚時代に他国のメンバーに感化し取り込まれたらしい。

議員というだけで国を動かせるという誤った特権意識が彼にはある。悲しいかなおそらく

殆どの議員が同じ体質である。国益にかなうなら少々悪い事をやっても目もつぶろうが、

こうまで汚いとそれなりの制裁を受けるべきだ。

温厚な首相が今回ばかりは怒った。

子供を誘拐し、さらに国民を危険に陥れようという行為は如何な理由があろうと許せない。

国の内外を問わず危険な思想を持つこのような組織は壊滅すべきだろう。

法律で裁けないなら消えてもらってもいいとさえ彼は言った。

私は彼を宥めた。

「 あなたの気持ちは理解できるし、やろうと思えば出来ない事ではない。

しかし、今少しの間人間の修復能力を信じましょう。国内に限っていえば確実に良い方向に

変わりつつあります。ただ今回関係したメンバーは全て考え方を変えてもらいます。

そんなところで納得して下さい」

「 ここで国家権力を乱用すれば彼らと同じだな。分かりました、あなた方にまかせます」

 首相はにこやかに私に言った。

メンバーとそれに係わる組織は密やかに粛清され、この一件は終了した。



ー 2 ―


私は一人で行動したいというAの要求にに困惑していた。この先も例の水分解触媒を含め

彼の援助を受ける予定なので邪見にできないのだ。

糸きれ凧にしては心配だ。思案したあげくワタシに聞いてみた。

「 彼の視聴覚メモリーをこちらでモニタリングするという条件でやってみようか」

「 それとAのバックアップチームがいるな。万一ロボットだとバレたら大変だ」

「 クラブに連れて行くと言えば、あの連中は暇だしこんな事は面白がる野次馬だから

協力するだろう」

「 念の為、Aがぶっ倒れたとき収容する車を用意しておこう」

私はAに様々な設問を出して対応力を試してみたが大きな穴はない。何より彼の

設定がチリから来たバックパッカーだから少々のぎこちなさは程よく補ってくれるはずだ。

私は彼にOKをだした。

Aは颯爽と出かけていった。その後からバックアップチームが出ていった。

半日経過しても連絡がないのはうまくいっているのだろう。

夜コウさんから連絡が入った。

「 あいつとんでもない奴だぞ。いきなり新幹線で京都に行きやがった。京都をあちこち

観光して夕方ゲストハウスに泊まったんだ」

「 俺はあちこち引き回されて近くのビジネスホテルにやっと落ち着いたんだ」

どうやら前々から予約していたらしい。

「 そうか散々だったな、ご苦労さん。交代要員を送ろうか?」

「 冗談じゃない。俺はやるぜ元ホームレスの面目にかけて」

「 そう深刻に考えないで、無理しないようにね」 引っぱり回される彼を想像して

笑ってしまった。

ただAのバックアップは二、三日で終了した。

それはAの行動が余りに突飛なので追跡するのがアホらしくなったからだそうだ。

托鉢する坊さんが珍しかったのかその後をずっとついて歩いたり、人力車に車夫を乗せて

走り廻ったりしたそうだ。その追跡に皆値をあげたのだ。




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第5章 3人の黒人
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