第十二章   山神さまの怒り




教祖と山神さまが帰ってきた。大層ごきげんだ。

「 教祖、お宝を見つけたのか?」 ロクさんが聞く。

「 そうだ、やったんじゃ。これを見ろ」 と荷台の袋の山を指す。

「 なんだ、みな驚かんのか? 大判小判の宝の山だぞ」 驚かない皆に教祖は不服そうだ。

「 そうか、それは良かったな。しかし 教祖の後ろにぞろぞろ憑いてきてるのは誰なんだ?」

 ぼやっとした影が山神さまの後ろにたたずんでいる。

「 山神さまの知り合いだ。宝を探す時、たいそう世話になったんじゃ」

「 それで今の世界を知りたいというから連れてきたんじゃ」

「 わあ、汚い連中だな! A、どうしょう」

「 しかたない、元をといえば山神さまを実体化したのは私だ」 

すると、いきなり黒い影が実体化した。みんなそれらしい格好をしているが、しかし途方も

ない土臭さを感じる。

わしは安房国の地蔵菩薩じゃ。同じく安房の道祖神・・・」と次々名乗りをあげる。

どういう理由かみな赤いマフラーをしている。

なかには少し目のつりあがった紳士もいる。

「 失礼ですが貴方は?」

「 われは正一位佐田彦大神の流れをくむ稲荷なるぞ頭が高いわ コン」

「 そうでしたか、それはようこそ」 私はやれやれと思いながら言った。

「 どうですか。まず銭湯にでも行かれたら?」 教祖、皆さんをお連れして下さい。

銭湯のカウンターではぞろぞろやってきた赤いマフラーをした一行に驚いている。

 「 ほう、これが銭湯というものか。気持ちのよいものじゃな」

「 いまの人間共めは贅沢しておるの」

「 昔のように崇められるのは無理か・・・」 神様たちは嘆いた。

「 まあそんなに悲観しないで、ここにはここの良い事がありますよ」

私達は歓迎会?と称していつものキャバクラに出かけた。

お相伴にあう元ホームレス達も飲めると聞いて浮き浮きしている。

「 まあ、キーサンお久しぶり!」 ママが流し目を送る。

「 静香でーす、佐緒里でーす、瑞穂でーす」

「 お、お、お、なんと、美しい白拍子ばかりじゃな、くらくらするわ」

「 それに乳が大きいではないか、われの好みじゃ」 

どの神様も品格は人間と変わりないようだ。

「 皆さん赤いマフラーがお似合いですわ。何かのクラブですの?」

「 これか、むかし我を崇めるものが着けてくれたのじゃ」

「 ふうん、なにかついていけないわ」

「 そこなママとやら、お主、肩が凝っておるであろうコン」お狐さまが変な事を言いだした。

「 そうなの、わかります? 以前からずっと重たくて」 とママが言う。

「 水子が肩についておるぞコン」

「 ギャッ! どうすればいいの!」

「 わしが払ってしんぜようコン」 お狐さまは九字を切りエィッと気合をかけた。

途端にママは崩れ落ちた。

ボーイが持ってきた水を飲みやっと落ち着いたママは不思議そうに

「 あらっ!重いものが取れた感じよ。不思議だわ」 有難うと礼を繰り返す。

「 あーこれ、そこな瑞穂とやら」

「 えーわたしー! わたしは妊娠したことないわよ失礼ね」

「 お主、悪いオノコに貢いでおるな。見えるのじゃ、このままでは悲惨なことになるぞ。

よいのか、このままで」

「 ギャッ見えるの、そんなことが。でも駄目なのよヤクザよ、離してくれないわ」

「 大丈夫、この方たちに任しておきなさい。ヤクザなんて後でメチャンコに潰すから」

 と私が安心させる。

「 キャーすてき、おじさま」 このやろう俺が連れてきたんだぞ。

「 サービスが一段と良くなって神様たちはデレデレになっている」

さらに冷え性だの不眠症だ、便秘症だのと色気のない事を言って集まってくるホステス達を

ナデナデしながら神様たちは御機嫌で診てやっている。

「 A、お前だろう。神様にあんな力はないはずだ」

もっと居たいと駄駄をこねる神様を連れヤクザの組事務所にやってきた。

「 ここは昔でいうならば、悪人どもの砦です。シン、遠慮なく叩きつぶせ」

Aが見つめると、ごっつい門扉がぎぎぎーと開いた。

事務所に乗り込むと人相の悪いのがぞろぞろ湧いて出てきた。

「 おどれら、ここを何処じゃと思うとるねん。コンクリート詰めにしたろーか」

「 おお、こやつらは悪相をしておるの、山賊か?」

「 神様方はお手が汚れます。こちらでご見物ください」

「 うむ、したが、われらもキャバクラとやらで馳走されたからには働かねばなるまい」

シンさんが相手する前に、神様が天狗の団扇だの式神やら使って大暴れを始めた。

「 あー止めてくれ、俺の相手がいなくなるー」 シンさんが嘆く。

ヤクザ共はこてんぱにやられ、組長はでかい大蛇にぐるぐる巻きにされヒーヒー言っている。

「 お前って好きだなあ」 私はAに呟く。

「 この調子じゃあヤクザはみんな店をたたむぞ」 シンさんが泣きそうになっている。

そうして神様たちはは大満足で山に帰っていった。



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第十二章  その二 石油採掘 



かって隣の大国を気にして石油掘削に及び腰だった日本政府は強気に変貌した

首相によって、尖閣周辺の石油採掘を台湾と合弁事業として進める事にした。

Aによって掘削場所と深度は分かっているから、やりだしたら速い。

掘削場所が何で判るのか、と不思議がる台湾技術者に、とにかく任せてと答える。

従来ならプラットホームという櫓を曳航し、ビットという鉄の錐のような物で何百

何千米もの深度まで掘削していくのだ。しかーし、私達のやり方は違った。

Aの指定場所にプラットホームを引っ張って行き、既に彼によって石油層まで届いた

トンネルチューブが弁付で海の上に顔を出しており、あとは櫓のパイプをつなぐ

だけだ。あとは吹出す油圧でタンカーの船倉に移すだけだ。

これで首相への義理はたった。

ここまで国にサービスしたのは身体に生まれつき異常を持つ人たちを救済する為だ。

我々のデーターベースからハンデを持った人たちをピックアップしている。

元ホームレス軍団の車で脳障害、ダウン症の人がいる家庭を訪れた。

ワタシが手を差しのべ可愛そうな子供の脳内に浸透していく。

30分程経過した。虚ろな顔をしていた子が突然お母さんと自分から声を出した。

かなりしっかりした顔に変化している。ワタシが患者に介入し改善したのだ。

「 お母さん、もう大丈夫です。この子には標準以上の能力を持つよう施しました」

「 何か心配事ができればご相談にのりますよ」 と安心させ次の場所に移動した。

5人の障害を持つ子供の家を廻りマンションに戻った。

こうして一か月が経過した。連絡先を伝えておいたのでその内口コミで患者が

連絡してくるだろう。マンションで治療する方が訪問するよりワタシも効率がいい

と言った。ここならならAにも加わってもらえる。

マンションの前に子ずれの列が並んだ。

なんだ、なんだとひそひそ噂をする近所のおばさんがいるが、気にしない。

元ホームレス軍団に手伝ってもらい列を誘導したり、パイプ椅子を並べて世話をしてもらっている。

なんせ元ホームレスだから腰が低い。近所のおばさんにも如才なく理由をはなしている。

次から次えと治療を終えた人たちが出てくる。みんな暗い顔が明るい顔に変って出てくる。

そうなると下町のおばちゃんの変わり身ははやい、お茶の接待までして噂のネタ収集を

始めた。知り合いの新聞社に通報までしたらしく、すぐに記者がやってきた。

責任者に会わせろと煩い。

勝手に治療しているが医療法違反ではないかと弱みを突こうとする。

「 あなたの車は駐車違反をしていますが!」 報道車を指して言うと、

「 私等は国民に真実を報道する義務があるのだ・・」 とすでにお怒りモードである。

「 それは、それは、高邁な御精神ですな。私が責任者です。その前に治療を受けたと

おっしゃる人に事情をお聞きになりましたか?」 

「 もちろんだ。誰一人治療を受けて無いという。しかし実際にあの人たちは改善している

じゃないか。何か不法な薬か、違法な催眠療法を施したに違いない」

「 まあまあ、私はこういう者です」 名刺を差し出す時にすかさずワタシが記者の脳内に

入りこむ。

「 さあさあ、私は忙しいのです。引き取ってください」 

洗脳された記者たちはくるりとUターンして帰っていく。残念そうなおばちゃんを

差し招き、他人のことより自らの改善をしないとこうなりますよと、餓鬼のイメージを送り

こんだ。

ヒー!といってお漏らしをするおばさんもいる。これで当分大人しくしているだろう。

生まれたからには誰もが楽しく生きる権利がある。自分には責任が無いのに不当な

ハンデを背負わされた人と保護者には辛い日常生活が続くのだ。

医療法違反だろうが何であろうが、まずそのハンデを取り除くのが第一であろう。

口ではきれい事をならべるが、他人の不幸を噂のたねにしたり、商売にする者が

いるのだ。

「 お怒りですな・・・」 ワタシが言う。

「 いや、ゼンさんやジバと比べるとね、悲しくなるよ」

「 でも少しずつだが皆の協力で、喜んで帰ってもらえるんだ。うれしいよ」



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第13章 ボコハラム
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