第十章 難民がやってきた



以前、中国が武力で日本に仕掛けた時はこてんぱにやっつけた。

そのせいで中国政府の威信は地に落ち、地方部では反乱が起きている。

それにつれ不法滞在とか難民とかが急に増えているらしい。

これは中国政府の新たな謀略かと思うほど難民は津波のようにやってくる。

送りかえしたいが、国際的にいい顔もしたい政府は優柔不断であった。

在来中国人の国籍変更が大幅に増え、さらにそいつらと難民が養子縁組をして

生活保護を受けるらしい。中国人の面子とはこんなもんなのだ。

これまでも役人のいいかげさからよく調べずに生活保護者を増やしてきたのだ。

政治家や特定政党の口利き、宗教団体、旧解放部落民、暴力団等の圧力に役所は

極めて弱い。しかし国民の税金がこのような連中に利用されるのは理不尽である。

政府もようやく重い腰を上げたが思うように対策は進んでいない。

これで少子化問題は解決だと言う政治家までいる。

ただ海外援助に使う金については政府との秘密協定で無税にしてもらっているから

税金云々をいう資格が我々にはないから黙ってみていた。

しかしとうとう首相が泣きついてきた。

「 それでも支持率80%以上の首相ですか。それにあなたの政府の危機管理室は

何をやっているんですか。当然この様な事態になる事は予想がついたはずです。

それも対策が後手、後手にまわって! あなたの指導力を疑います」

「 やっているんだがね。我々も遊んでいるわけではないんだ。中国に打撃を与えて以来

アメリカの態度が変わってね、情報が入りにくくなっているんだ」

「 そうでしたか。きつい言い方をしてすいませんでした。しかし難民対策でアメリカ以外に

何か足を引っ張る連中がいるんですか?」

「わが党内にも親中派はいるし、マスコミも口ではかっこいい事を煽ってね」

「 いいでしょう。貴方はいい人だがいまひとつ性格が政治家向きじゃない。よろしかったら

今より強めの性格強化を施しましょう」 どうですかと首相に聞いた。

「 頼むよ、強くしてくれたまえ」

「 おい、聞いているんだろう」 とワタシを呼びだした。

「 やっとくよ、しかしサッチャーやスーチンのようになっても知らないぞ」

「 まず役に立たないマイナンバー制度ではなく政府でも役人でも見れない個人情報管理を

構築しましょう。過去の国籍、職歴、税金の納付状況、病歴等々です」

「 それはこちらでやりますが、政府から要望があれば情報をお伝えします」

「 但し政府は一切関わっていない事にしたほうがいいでしょう」

「 それらの情報からこちらで違法なことをやっている輩は国外退去を行います。

少しずつそれは行われますから目立たないでしょう。退去の場所はこちらで

決めます。疚しい事をやっていない人は心配ありません」

「 例えば中国などの難民は元の国に送り返します。それでこちらに来ても無駄ということが

わかるでしょう」

「 よしその件については君たちにまかした。よろしく頼むよ」 おっ、強化が効いてきた

ようだな、首相のもの言いが変わった。

中国のやり方は見え透いている。何せ人口が多すぎるのだ。国家戦略として

永い時間をかけて世界中に国民を送り込み支配してしまうのが目的だ。

これまで避難してくる難民は金持ちが多かったが、ここにきて低所得者や年寄が増えて

きた。これは明らかに中国政府が金を渡しているのだ。以前漁民に金を渡して

尖閣諸島や小笠原諸島に送り込んだのと同じやり方である。

人口が13億人以上の大国と自慢しているが年齢分布は少子化政策を続けた為、

日本以上の高齢化が進んでしまっている。年寄や貧乏人が邪魔なのだ。

難民と称してそれを堂々と国策としてやっている。

収容所はパンク寸前なので無数の大小の船に乗ってやってくるが、

海上保安庁によって沖合に停止させている。

中国の目論見は当ったかにみえた。

そこにふっと霧のようなものが船団をおし包んだ。霧が晴れた時には何も残っていなかった。

ネットで配信されたニュースには天安門広場に転がった船と難民が映っていた。

中国政府は難民に対する小日本の暴挙であり人権を無視した行為はつよく非難すると

内外に報道したが、国際的に非難されたのは中国だった。

その後難民と称する渡航者はいなくなった。

国内ではワタシの分身が静かに一人一人の脳内を精査し膨大なデータを取り込んで

日本に在住あるいは滞在する人間の身元調査をすすめている。

その際、本人が知らないうちに有機識別チップが脳内に刷りこまれた。

その膨大な個人情報のデータベースの構築が進んでいる。

政治家、役人、宗教団体、右翼左翼、大使館員、金融業者、病院関係者、ヤクザ等の

暴力団、外国人、帰化した人、留学生、出稼ぎの人、不法滞在者等が知らぬうちに

優先してそれを受けた。

これらの情報は一般人は絶対見ることが出来ない。但し政府の要望があれば閲覧が

可能だが限定される。利用者の脳内を精査した後人工脳が許可した場合のみでコピーも

印刷も出来ない。

資本主義も、自由経済社会も行き詰っている。

私は経済発展を第一とする国の運営はもはや国を駄目にすると考える。

所得格差を生み、安定のみ考えて公務員を目指す学生、利益だけを優先する企業、

学校や家庭内暴力、救急患者を拒否する病院、税金を取りながら入れない介護施設・・・など

矛盾にみちている。

「 1000兆も借金を膨らませ、これまでの行政で何が良くなったんですか」

いくら良い政策でも政治家や役人が己の為にねじ曲げてしまう、何十年経っても

その繰り返しである。 

「 もはや日本独自の社会体制を作り上げることが急務でしょう」

私は首相に伝えた。

「 特別区を作ってはどうですか。そこを徹底的に改造してモデル地区にするのです」

「 もちろん出入は自由であり、金儲けや、見栄が第一と考える人達は居づらく

するのです。

特別区の行政は住民がネット参加しておこないます。事務手続きなどは人工脳が行います。

ライフラインの維持やゴミ収集も人工脳を持ったロボットが行います。

教育は誰の為でもなく、自分自身の為にまなびます。したがって文部省、教育委員会等の

押しつけ型の教育方針は反映されません。教師はロボットですが住民が決めたカリキュラム

に沿って行います。

税金は一切不要ですが地区の運営資金は住民が所得に応じて供出します。

自治区での企業は研究室、企業化企画事業、製造業でその他は付加価値の高い

農産業になるでしょう。あくまで試験的に行うのです。

当初の費用はこちら持ちでやります。

貴方にも御事情があるでしょう。それを斟酌しますと、政府は運営が軌道にのるまで

知らない振りをして下さい。

「 それでは政府の意思が及ばない独立国ではないかね」

「 けったいな国民を作るよりいいでしょう」

「 他の国とは一味違った国にしたくありませんか。今や魅力ある国づくりの分水嶺に

あると考えます」

「 それにより貴方は歴史に残る首相になるでしょう」 とくすぐった。

あの中国山地の限界村は大きく変貌していた。かって加齢により日常生活に支障をきたして

いた村民は見違えるようにエネルギッシュになっている。

病人も足腰の不自由な人もいない。子供も豊かな自然環境の中で生き生きと学び遊んで

いる。人間の基本的な幸せのファクターは健康と自由な暮らしだろう。

ここではどの国にもないそれが実現できている。

其々が自由な発想で企業を起こし工業製品や農産物を生産し発売をはじめている。

ユニークな製品、付加価値の高い農産物の生産に手を貸したのはAやワタシである。

外国援助で活躍したジバもそのノウハウを活かし協力している。

同じような近隣の限界村の年寄たちも見学にきて我々の考えに賛同してくたのだ。

なにせ今まで見捨てられていたのだから。

広大な地域がAによって台地に変わっていた。

過疎村の人口は台地が広がるにつれ増加し、現在は10万人を突破している。

データーベースから条件に適合する候補者を選び勧誘したからだ。

キーワードは人生の変革である。自分でそれが出来ている人には無用の誘いだ。

物資の豊かさや便利さでは到底都会には敵わない。

しかし村民は満足しているようだ。

頃良しと判断した政府は特別区を公表した。

まず政治家が見学にきたが、政治に関心を持たない村民が票田にも金にもならぬ

とみて早々に帰っていった。

続いてやってきた新聞社やテレビ局は最初から偏見を持っている。

代表者は村長に扮したロボットがそつなく応対している。

「 ここには法律がないそうですが」

「 みなさんの処は必要なんですか?それは何故?」 と聞き返している。

「 法律で縛らなきゃ其々が好き勝手をするからでしょう。犯罪を押えきれません」

勝手に正義の代表をきどる記者が憤然と答える。

「 それがこの特別区の存在意義のひとつです。誰にでも聞いてください、ここには犯罪など

ありませんよ」

「 ここには病院が有りませんね。やはり町まで行くのですか。年寄には酷でしょう」

「 産婦人科の病院はありますが、その他は病人がいないのでありません。誰にでも聞いて

みてください」

「 何故ですか、そんな事を言って責任を持てるんですか」

「 責任は村民其々が自らにはたすものです」

「 ですからあなたに責任云々を言われる筋合いはありません」

「 我々には報道の自由と責任と使命があるから云っているんだ」 頭にきたようだ。

「 ですから私のいう事が信じられないなら村人の誰にでも聞いてください」 

このロボット村長は優秀だ。

「 ではこちらからお聞きしますが、あなた自身は今の国の状態に満足していますか?」

「 この国は矛盾に満ちている。だから報道を通じて大衆の底上げをしている」

「 新聞販売という商売をやりながらですか」

「 我々は報道担当だ。販売は関係ない」 ふむふむ正直なやつだ。

「 私は村長として経験が浅いので思ったことは何でも正直に言ってしまいます。失礼があっ

たならご勘弁ください」

「 ここの子供達は文部科学省の教育制度指定の教育を行っていませんね」

「 特別区ですからね」

「 さっき授業風景を見学しましたが、教師は何もしてませんね」

「 そうですよ、子供たちが学びたいものを自分たちで決めて学習するのです」

「 あとであの子たちにインタビューしてみて下さい。優秀そうなあなた方や東大生よりも

すごいですよ」

「 何故ですか」

「 何故でもです。失礼ですが貴方は語学は堪能ですか?あの子たちは少なくとも

数か国語が喋れます」

「 何故ですか?」

「 何故でもです」

「 それなら学校なんて必要ないでしょう」

「 一般的な学校では押しつけ教育を我慢して受けるのが普通ですね」

「 ここでは競走も受験勉強もありません。学校は楽しみ遊ぶところです」

「 それに加えていじめなど無いと言うんでしょう。それじゃ人畜無害の人間じゃないですか」

 不満そうに記者が言う。

「 人畜無害かどうか分かりませんが、特区以外の子供に比べてしっかりした主体性を

持っていますから自らの判断で行動できます。この間校外学習でたかりに会って自己防衛で

のしてしまったらしいです。そんな時はできるだけトンズラしなさいと言ってます」

「 それに彼等の運動能力も優秀ですよ」

「 何故ですか?」

「 ここは自然が豊かで空気がいいですからね」

「 答えになってませんよ」

「 それではこの村の運営についてですが、この村の経営収支はどうですか」

「 おかげさまでプラスです。特区独自の特許等があり、そこからの収益はもちろん

ライフラインの維持やゴミのリサイクル事業など等にまわされます。その他の事業は

村営も共同経営もあります」

「 国や県などのいらぬ規制ないので発想は自由で豊かで奇抜になります」

「 ここで、少し宣伝もしちゃいましょう。今売り上げのトップの企業は天気、天災予報会社で

す。企業と契約してピンポイントの情報を提供しています。その正確さで
契約数がどんとん

増えています。どうですおたくの会社も?」

「 契約にはオプションで地震予報があります。震源地、発生日時、規模、ピンポイントの

震度、津波情報、被害予測までついています。日本限定ですが大きな被害が予想される

場合は近隣諸国に無料で情報を提供しています」

農産品もあります。今一番売れ行きのいいのは紅茶、お茶です。飲んでみて下さい。

冷たくしても香りがいいんです」 と記者達に勧めた。

「 なんだこれは! うまい、しかも何という香だ、こんなもの飲んだことがないぞ」

「 ファンタスティック! 癖になりそうだ」 外人記者にもうけている。

国の制約を受けないとどう変わるか、一年後にでも取材にくるようにとマスメディアに伝えた。



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第11章 伸夫のライバル
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