登場人物

A        ・・・・・・・地球に関心を持つ存在

私        ・・・・・・・主人公 

ワタシ     ・・・・・・・私の中の第二人格

伸夫      ・・・・・・・芸術に秀でた少年

ボン       ・・・・・・・拾ってきた犬

教祖と仲間  ・・・・・・・元ホームレスの仲間 

ツネ      ・・・・・・・大家のバアさん

部屋       ・・・・・・・日本の首相





目次

第一章    Aのわがまま

第二章    伸夫とボン

第三章    A大暴れ

第四章    外圧高まる

第五章    三人の黒人

第六章    Aが帰ってきた

第七章    元ホームレス軍団の噂

第八章    A海をみる

第九章    限界村と若者

第十章    難民がやってきた

第十一章  伸夫のライバル

第十二章  山神さまの怒り

第十三章  ボコハラム

第十四章  米国怒る

第十五章  ロボット研修生

第十六章  エピローグ







第一章  Aのわがまま


その存在は思案していた。

宇宙の端っこにある星雲のちっぽけな星の生命のことである。

広大な触手の網を宇宙全体にめぐらせているいるが、その網をすり抜けてしまう

情報は
よくあることなのだ。

気の遠くなるほどの永い時間をかけて生命が進化し、そして滅びる過程を観察しつつ、

生命自体がコンタクトをしてくるのを気長に待機しているのだ。

宇宙に存在する生命の基本的な体系は様々であり、炭素系の生物は数少ない。

さらにその生態系はまちまちで極端な場合、惑星全体がひとつの生命であったりする。

あの、ワタシという存在から様々な情報は得ているものの、地球という星の情報は

以前として雑然とした理解にとどまっている。

我慢も限界だ、そろそろその実態を直に接触したい。その願望は時の経過とともに

深まって来るのだ。

「 よし決めた。こっそり様子を伺ってみるか」 Aは呟いた。

何かの気配を感じたのはワタシだけではなかった。地球を覆うような異質の気配が

働いたのだ。

赤子は泣き、犬が吠え、猫が毛を逆立てている。

「 さとられたようだな。なに、悪気は無かったんだ」 存在Aがつぶやいた。

「 あなたの様な量感があれば誰でも気が付きますよ」 少し非難をこめてワタシ

は言った。世界は大騒ぎだ。

「 すまない。こっそり地球人と接触したかったんだ」

「 云ってくれれば、お客さんとして招待しますよ」

「うーん、 そうなると取あえず貴方の一部をどこかに収容しなくては。そして貴方はすぐ

引き上げて下さい。そうしないとえらいことになります」

「 大容量の記憶装置があります。そこに貴方の意志の一部をを送り込んでください」

「 世話をかけるね。どうしても君たちのことが気になってね」

「 割といたずら好きですな。そんな性格なら人間が理解できるかもしれません」

「 要するに、直接人間と接触したいのでしょう」

「 そうなんだ。できるかね」

「 まあ、いろいろお世話になっていますし、驚く貴方も見てみたいし・・・」

「 この記憶装置にはワタシの基本的な知識を活用できる人工脳が入っています。

貴方の一部を保存する領域はこちらです」 とバカでかい装置を示した。

「 ほうほう」

「 人間のような融通性は劣りますが容量だけは十分にあります」

「 但し固定式です。人間の頭骸骨に収まる高性能の人工脳は開発出来ていません」

「 それでも最近の人工脳は冗談も言って笑わせるし、困難な問題を

一時棚上げまでやります」

「 それは中々のもんだね。わたしが使いやすいようにカスタマイズしていいかね」

「 それはご自由にやってください。できれば後で我々が利用できるように汎用性を

加味してください」

「 わたしは笑ったり泣いたりする行為を経験してみたいんだ」

「 ワタシから大分勉強しましたね」

「 欲をいえば、ものを食べて美味いとか不味いとか感じてみたいし、煙草も経験したいんだ」

「 それにアルコールもと云いたいんでしょう。そこらへんは予想していましたよ」 

ワタシはこの宇宙の根源的な存在が
なぜ人間の俗物的習慣を経験したいのか

理解できなかった。

野次馬根性のそんな人間的な性格はむしろほほえましい。私は大まかに人間について

レクチャーした。

「 人間には五つの感覚があります。見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れるという五感です。」

「 貴方の望みを叶えるには問題があります。人間と同じように二本足でスムーズに

行動でき、尚且つ五感を備えたロボットは現在の技術では不可能です。どのセンサーも

一つに組み合わせると馬鹿でかくなるのです」

「 つまり、あなたが出歩くには人工脳以外のスペースに動力装置と五感センサー、

それに物を食べれば消化して排泄する器官を備える必要があります」

「 笑い泣くとなればその表情を出す筋肉と目から出す水分、オプションで呼吸や

咳込む擬似装置など問題は山ほどあります」

「 そこらへんは私の方で解決しよう」 とAは簡単に言った。問題をあれこれと提起すれば

諦めるかと思いきやなかなかしぶとい。

「 わたしは随分孤独だったから、人間のように他者と交わる生活を見てみたい。

しかし外から覗いてみると何故か右往左往しているようにしか見えなかったんだ」

「 なるほど、我々が蟻や蜂の巣の中を覗くとそんな感じがしますね」

一か月ほどして人類初の高性能ロボットは完成した。しかも汎用性が高く後で役立ちそうだ。

ついにスーツ姿のイケメンな外人ふうのロボットが私の前に登場した。

「 設定は男性、27歳にしているがどうかね?」 馬鹿でかい声で喋りだした。

「 声量を下げてください。それでは拡声器だ」

「 単独行動は出来ますが、当分の間は私がアシスタントとして同行しましょう」

私はAを人間と接触させる手順をいろいろと考えてみたが、どれも放棄した。

行き当たりばったりの方が面白いと思ったのだ。

「 じゃあ取り敢えず軽い昼食をどうですか。行きつけのラーメン屋があります」

「 おうそうかね、楽しみだな」

「 あの、取り越し苦労かも知れませんが、面白いからといって外では何でもメモリーに

残しちゃ駄目ですよ」

「 道路のひび割れや雲の動き、車の動きなどは珍しいからといって、何でも記憶すると

容量過多になって貴方の動きにも影響してきます」

「 取捨選択に気をつかって下さい」

「 不便なものだな」

「 じゃあ止めときますか?人間の文明はこれが限度です」

「 とんでもない。いやだよ」 Aはあわてて言った。

初の外出である。動作はなかなかスムーズで、まったくロボットとは思えない。

よく行く駅前のラーメン屋ののれんをくぐる。

「 イラチャイ」 中国人の店主が挨拶する。

店はうす汚れているが、味だけは保証つきのラーメンを注文した。

すぐに出てきたラーメンをAは珍しそうに見ている。

「 これが美味いというラーメンか」

「 そうです。地球の、いや日本で一番好まれている料理といえます」

「 これがラーメンの麺というもので、これがチャーシューでこれが・・・」と説明する。 

「 あのねラーメンを箸でつかんで口まで持って行ったら、こんなふうにすするんです」

私が音をたててすすると、その動きを真似してぎこちなくラーメンを食べ始めた。

「 上手い、上手いその調子」

「 なるほど、これがラーメンで、味は美味いのか?」

「 美味いか、不味いかは自分で決めることですよ。私は美味いと感じます」

周りの人が聞いたらけったいな会話をしている二人と思ったであろう。

「 あなたはこれで初めて地球の食事の経験をしました」

「 どうですか、感想は」

「 正直に云って、人間は不便な生き物だな」 ギャフン、改めて思えば間違いない。

「 地球上の生物はいずれも食事を、いや餌をとります。そうしないと死んでしまいます」

「 人間は歳をとるとやがて食事取れなくなり、あるいは病にかかって亡くなります。有限の命

にもかかわらず阿保な生き方をするのが人間です」

「 卑下するようですが人間は進化の袋小路に入っているといわれます」









「 さて人間の基本的な行動は食べて、動いて、排泄して後は寝ることです」

「 それに人間は感情を持つ生物です。喜ぶ、怒り、悲しみ、という基本的な感情を持ちます。

いわゆる喜怒哀楽のことです。どのタイミングでそれを表すかは経験で学びましょう」

「 さらに人間にはやせ我慢とか見栄とか美意識とかいう複雑な感情もあります」

「 美意識はその人間固有のもので価値観ともいって同じものを見ても人それぞれ

評価が異なるのです」 まあ今回はこのあたりで止めとくかと思ったときだった。

「 すると標準的美意識からするとあれはどうなるね?」 いきなり横を肩をゆすって

歩いていた強面ふうの兄ちゃんを指さして言ったので驚いた。

「 あんだ?この野郎、人を指さしてどうだこうだぬかしたな」 襟首を掴まれても

Aは嬉しそうに笑っている。

「 上等だ!ちょいと顔を貸してくれ」 と隅に連れ込まれたAはしきりにロボットの首を外そうと

している。

「 ちがうんだ、顔を貸せと言われても首は外さなくていいんだ」 ワタシは慌てていった。

これは先行きが心配だ。

なりは普通の人間だが150s以上あり、しかも外皮は弾性と塑性を備えた金属製のロボット

だから、どうなるか様子をみていた。 

ちんぴらに絡まれてさんざん痛めつけられてAはつぶやいた。

「 あー面白かった。なんだか気持ちがいいな、スカッとしたよ」

「 あんたはマゾか」

「 なんだね、それは」

「 自分の頬をつねったら痛いが、それを止めたらなんだか気持ちがいい。そんな感覚かな。

そんなのは俗にアブノーマルな性癖といって一般的じゃないんだ」

「 ふーむ。興味ぶかいな」

「 人間の性癖は複雑なんだ。マゾ趣味の人間が行くクラブがあるよ。行ってみるかい」 

「 この際何でも体験したい」 のうらくな宇宙人だ。

「 さっきのように人を指さしてものを云ってはだめですよ」

「 それに顔を貸せというのは比喩的な表現です。実際には一緒に来てくれという意味

なんです」 ふむふむとAは頷いた。

SMクラブ、ジローに連れて行くと、ゴリラのようなマッチョが出てきてAは縛りつけられた。

極初心者だからと云っておいたから手加減してくれるだろう。女が出てきて、ムチを振り上げ

Aをいきなり一発打った。

「 ヒエー痛い、まってくれ」

「 お黙り!」 ピシリ

「 ギャッ、痛い、止めて」

「 女王様とお言い」 ピシリ

「 ウゲッ 女王様、やめて、やめて下さい」

これは貴重な体験だな。私はニャニャしてみていた。

ムチ打ちの儀式の次にローソク垂らしまでやって初心者コースを堪能?したAにふざけて

聞いた。

「 追加コースもあるみたいだよ、どうする?」

「 いや満足だ。これは面白い体験だ」 うーん、なかなか負けず嫌いなやつだ。

「 それは結構、これで貴方は人間のやせ我慢を習得したんです」









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信夫とボン
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